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2021.3.17

詩人、菅原克己さんの事を知ったのは高田渡さんの歌
「ブラザー軒」を聴いた時、
その後中村好文さんを特集した住宅建築の巻頭にも
「日常の椅子」という詩が掲載されていました。

誰かがいるようだったが
誰もいない。
ぼくは町から帰って
重たく腰をおろす、
自分の上に腰かけるように。

--テーブルと、
椅子が三つあれば、
それだけで人生が書ける、と
チェホフはいったが、
ぼくの家には椅子が二つしかない。

--もう帰ったの・・・
妻がいつものように手をふきながら
台所から出てくる。
そしてもう一つの椅子に腰をおろし、
それからゆっくり一服つける。

その後本を探していたところ、これまた好きな漫画家
山川直人さんが菅原さんの詩を基にして描いた本があると知り早速手に、
菅原さんの詩と、山川さんの絵が合い、読んでいて心地よい本でした。
「ヒバリとニワトリの鳴くまで」という詩がとても好きです。

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2021.2.17

吉田健一さんのお酒に関するエッセイ集。
吉田さんの文章を読んでいると、暖かい縁側でのたりのたりと
お酒を飲みたいなぁ~という気持ちになります。
この本の「飲む事」というエッセイの中で共感した文章がありました。

「仕事が何かの意味で、ものの秩序を立て直すことならば、
 仕事に一区切り付けて飲むのは、我々が仕事の上で目指している
 秩序の原形を再び我々の周囲に感じて息をつくことではないだろうか。」

仕事をする時には”意識”がもの事を切り分けて、ある”目的”に向けて
再構築して行きます。
お酒を飲むと”意識”が後ろに引き、”目的”も消え、ただあるがままの繋がった
世界を再び身近に感じる事ができるという事でしょう。
あたたかい春の日に花を愛でながらお酒を飲んでいると確かにそんな感覚
におちいりますね。
早くポカポカと陽ざしを感じながらお酒が飲みたくなりました。(^^)

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2021.2.8

益田ミリさんの本。
益田さんの漫画が好きで「すーちゃん」シリーズなど休日に読んでいます。
シンプルな単線で引かれた絵の裏にある、本質をえぐる鋭い視線が心地よく
癖になる本です。
さてこの「永遠のおでかけ」は高齢の親を持つ世代には身につまされるお話し、
残念ですが親はいつまでも元気・・・ではないのですよね。

是枝監督の映画「歩いても歩いても」の中で主人公(阿部寛)
が実家から帰るバスに揺られながら
「あ~ぁ~いっつもこうなんだよ、ちょっと間に合わないんだ」
とつぶやく場面があります、
どうやっても”間に合う”ことはないのかもしれませんが、
きちんと思いを寄せて日々を過ごす事、
それだけでも自分の救いになるかもしれません。

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2021.1.20

デンマークの建築家、ヨーン・ウッツオンがシドニーのオペラハウスを
設計した時の光と影の物語。

“シドニーのオペラハウス”といえば建築に詳しくない人でも写真をみれば
「ああ、あれね」と即座に分かる建物。
ヨットの帆のような美しいシルエットの屋根は、
一瞬で人の心を掴んでしまうなにかがあります。

この本を読むと、美しい建物を支えているウッツオンの明確な設計理念、
そして政治や経済によってその理念が無残に蹂躙され、ウッツオンが設計
の座を辞す事で建物が迷走してゆく様子をつぶさに追う事ができます。
一つの建築に詰まっている物語と熱量に圧倒されます。


*写真UTZUON-inspiration-vision-architecture より

この本の中で特に惹かれたのが
「ヨットの帆のような屋根にタイルをどう張り付けてゆくのか」
という難問(屋根の曲面が変われば全て特注のタイルとなってしまう)
にウッツオンが解決策を見つけるくだり。
「全ての曲率(曲げ角度)がおなじ球体から屋根のシェルを切り抜けば、
全て同じタイルを使って施工できる!」との閃き、まさに天才です。

ウッツオンの詩人のような感性と、天才の閃き、
後はタフにネゴシエートしてゆく図太ささえあればオペラハウスの運命も・・・

ただウッツオンの思想と乖離したインテリアが近々改修されるとの事。
改修にかかわるのは息子さんの”ヤン・ウッツオン”
息子さんの手によってウッツオンのオリジナルの思想に近い空間が
生まれる事を切に願っています。

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ヨーン・ウッツォン
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2021.1.9

檀さんのエッセイや「檀流クッキング」が好きでたまに手に取って
読むのですが、お正月休みに長編小説「火宅の人」を読んでみました。
本の内容はとても深いものなのですが、合間に出てくる料理や普請
の描写がとても魅力的。

「私はウロウロと、喪家の犬のように、落ち着きなくうろつきまわりながら、
雑多な魚介や、肉や、根菜類、の買い出しがしたいのだ。

七輪をおこし、団扇でバタバタあおいで、自分の食べるものを、自分で酢に
つけ、塩につけ、さまざまに煮炊きしてみたいのだ。
自分の小屋をつくってみたり、こわしてみたりしたいのだ。

そうして、私のまわりにチョロチョロする子供たちをよせ集めて、泣くな
よしよしの、やけくその蛮声をはりあげてみたいのだ。
犬、猫、鶏、家鴨の類を、絶えず私のお尻のうしろあたりに、ざわめかせて
いたいのだ。」

この一文に檀さんの人となりが表れていると思います。
暮らしに対するまなざしに共感するところが多く、確認するように何度も読み
返してしまいました。

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2020.12.14

モノクロームの線画で有名なエドワード・ゴーリーのインタビュー集。
風変りで飄々とした受け答えは、読んでいて思わずくすりとしてしまいます。
仕事は勤勉にこなしてゆくか、という問いに

「いえ、仕事にかかるくらいなら他のなんでもやりますね。
 外にでる口実が少しでもあれば、その日はおしまいだ。」

子供のころの事を聞かれて

「まったく思い出せない。私にはとうてい自伝なんて書けっこないでずね。
 言いたいことがこれっぽちも思い浮かばないんだから。」

などと、風変りとユーモアの絶妙なバランスでついつい読み進んでしまいます。
こんな大人がもっとふえると世の中が楽しくなりそう。
ふとした時に手に取りたくなる本でした。

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2020.12.4

J.D.サリンジャーの本
サリンジャーといえば「ライ麦畑でつかまえて」
学生時代にポケットに突っ込んで(格好つけて)読んでいました。
本屋さんで背表紙を眺めていると サリンジャー/村上春樹 訳 
という文字が、この二人の名前が並んでいるとそれだけで手に取って
しまいます。
不安定で感受性の強い兄妹フラニーとズーイ。
読んでいると自分が学生時代に感じていたよるべなさ、根拠のない気ままな
自由さをふと思い出しました。
不安と自己嫌悪に苛まれながらも案外素敵な時間だったなぁ・・
と今になって思います。
みんな元気にしてるかなぁ、というのが読後の感想(笑)
文も装丁もうつくしい本でした。

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2020.12.1

建築家、中村好文さんのあたらしい本。
「美しく散乱する台所」を理想とする台所設計術があますことなく書かれています。
映画「ジョンとメリー」の中に出てくるスタイリッシュな台所、
奈良今井町のジブリのアニメに出て来そうな勾玉型の竈など
好文さん「意中の台所」も必読です。

人々の暮らしに対するおおらな視線、形ではなく本質的な事は何かを
ユーモアを交えながら鋭く切り抜く視線。
この2つの視線が交わるところに現れる好文さんの世界にみな惹かれて
しまうのですね。
なんど貰っても嬉しい好文さんのサイン。
こんなバランスで字が書ければなぁと何度思ったことか・・・
まだまだ手を練り感性を磨いてゆかねば、と気持ちをあらたにしました。

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3人の建築家
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2020.11.24

生活工芸プロジェクトの本「繋ぐ力」
「古道具屋坂田」の坂田さん、「ギャルリ百草」の安藤さん、
そして建築家の中村好文さんなど、ものづくりの一線で活躍されている
方々のインタビューを読むことが出来ます。

表紙は好文さんが今までにつくってきた手摺たちのサンプル写真、
クライアントさんと握手するような気持で考えるとの事、
あたたかく美しいかたちです。

つくり手の人柄を感じる事ができる「暮らし好き」「道具好き」には
たまらない本です。(^^)

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2020.11.19

和田誠さんの「ことばの波止場」
替え歌や、韻など言葉あそびの楽しさをまとめた本。

僕は特に回文に惹かれました

「竹藪焼けた」  たけやぶやけた

上か読んでも下から読んでも、たけやぶやけた

言葉=何を意味するか、とすぐに概念を代替する記号として捉えがち。
この本を読んでいると言葉が本来持っている、リズム、音、
質感のようなもの、その楽しさをあらためて味わう事ができます。

和田さんの率直で外連味のない文章もすっと入ってきます。

ここでぼくも一句(一回文)

「ゴマ食べた孫」 ごまたべたまご

まだまだですね(^^ゞ

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