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2021.3.25

ルイス・カーンやウッツオンの作品をトレースして
思考をなぞってゆくと各々の建築家の設計手法のようなものが見えて来ます。

この二人に共通するのは「言葉」を疑うところから始める姿勢です。

例えば「図書室」を設計しようとした時、
いきなり資料集成を引っ張り出して面積の案分やコスト配分を検討するのではなく。
そもそも~本を読む~というのはどのような行為で、それにふさわしい場所は
どんな空間なのだろう、という「はじまり」から設計を始めます。

本の頁をめくるには、ひっそりと壁に囲われた静かな場所で、時折そっと風が
頬を撫でてくれるような場所が良い・・・ などと

今回はオペラハウスなど主要な作品のスケッチトレースを進めた上で見えて来た
ウッツオンの「設計の流儀」をまとめてみました。

あらかじめ分類され用意された「言葉」「場所」を疑い、
もう一度自分の体を通して自分なりの「統一性」を掴もうとする、
建築設計は奥が深く興味が尽きません。

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ヨーン・ウッツォン手描きスケッチ
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2021.2.22

言わずと知れたウッツォンの代表作「シドニーオペラハウス」
建築に詳しくない人でも、この帆船のようなシルエットはどこかで
目にした事があるはず。
シェル状の屋根構造を決めるのにとても苦労したようですが、
中世ゴシック教会の屋根のつくり方、6分ヴォールトを分節して繋げる
とあら不思議、そのままオペラハウスの屋根の構造に。
ウッツォンが意図したかは分かりませんが、中世の建築と現代の建築
の技術が繋がっている、というのはとても興味深い事です。

こちらが平面計画、海に突き出した半島状の敷地に1/5勾配の角度で振れた
大ホールと小ホールが寄り添うように並び、手前のレストランと合わせて
3つのボリュームが小気味よく配置されています。

大ホールの断面計画、
4枚のシェル状の屋根がとても美しいのですが、意匠的なものだけではなく
それぞれ
A → エントランスホール
B → ステージ(ステージタワーが入るよう高い空間)
C → 客席
D → ラウンジ
と一つの屋根に一つの機能があてがわれ、屋根の高さも下部の空間の用途と
呼応しています。

ただ残念ながらウッツォンが途中で仕事を降りてしまったため現状の
オペラハウスはこのような断面計画にはなっていません。

ウッツオンの感性で描かれた美しい屋根のライン、
その屋根を実現させたゴシック建築の技術、
そして屋根の大きさと呼応した機能的な平面計画、
建築の醍醐味を凝縮したような素晴らしい建築。
トレースするだけでも楽しいのですから、実際に空間を体験したら・・・
いつか訪れてみたいです。

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ヨーン・ウッツォン手描きスケッチ
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2021.1.22

昨年の夏ごろからウッツォンの図面トレースを続けています。
一人の建築家についてしばらく研究を続けていると、その建築家
のもつ感性や人柄、設計手法などを少しづつ理解することが
できとても楽しいです。

さて今回のスケッチトレースは「キンゴーテラスハウス」
20M角を壁で囲み、そこにL字のプランとパティオ(中庭)を入れ込む計画。
正方形の庭をL字に囲む平面はアアルトの「コエタロ」を思い起こさせます。

平面計画もさることながら、このプロジェクト最大の魅力はその”配置計画”
規格化したテラスハウスをネックレスのようにつなげて敷地に置いてゆきます。
モロッコやイスラムの街並みを彷彿させる造形、ウッツォンの建築は本当に
独特で興味深いです。

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ヨーン・ウッツォン手描きスケッチ
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2021.1.20

デンマークの建築家、ヨーン・ウッツオンがシドニーのオペラハウスを
設計した時の光と影の物語。

“シドニーのオペラハウス”といえば建築に詳しくない人でも写真をみれば
「ああ、あれね」と即座に分かる建物。
ヨットの帆のような美しいシルエットの屋根は、
一瞬で人の心を掴んでしまうなにかがあります。

この本を読むと、美しい建物を支えているウッツオンの明確な設計理念、
そして政治や経済によってその理念が無残に蹂躙され、ウッツオンが設計
の座を辞す事で建物が迷走してゆく様子をつぶさに追う事ができます。
一つの建築に詰まっている物語と熱量に圧倒されます。


*写真UTZUON-inspiration-vision-architecture より

この本の中で特に惹かれたのが
「ヨットの帆のような屋根にタイルをどう張り付けてゆくのか」
という難問(屋根の曲面が変われば全て特注のタイルとなってしまう)
にウッツオンが解決策を見つけるくだり。
「全ての曲率(曲げ角度)がおなじ球体から屋根のシェルを切り抜けば、
全て同じタイルを使って施工できる!」との閃き、まさに天才です。

ウッツオンの詩人のような感性と、天才の閃き、
後はタフにネゴシエートしてゆく図太ささえあればオペラハウスの運命も・・・

ただウッツオンの思想と乖離したインテリアが近々改修されるとの事。
改修にかかわるのは息子さんの”ヤン・ウッツオン”
息子さんの手によってウッツオンのオリジナルの思想に近い空間が
生まれる事を切に願っています。

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ヨーン・ウッツォン
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2020.12.28

オーストラリア「シドニーのオペラハウス」の設計者ヨーン・ウッツォンの
初めての住宅作品、ヘルベックの自邸。
奥さんと森の中をテント張って移動しながら敷地を探したり、
図面を描かずに現場で実物大の模型をつくって空間をスタディしたり、
ウッツォンの設計に対する独自性は最初からなのですね。
そういえば柳宗理さんも図面を描かずにいきなり手で石膏をこねてモノの
形を考えていたとか。

森の中に、黄色のレンガブロックの壁、木造の柱、ガラスで構成された伸びやかな
平屋、キッチンと暖炉をコアとしたオープンプランとなっています。
フランクロイド・ライトの横に流れる空間、
ミースの水平に伸びる壁とガラスの構成、
当時ストックホルムに建てられた茶室「瑞暉亭」などの影響を生けつつ、
暮らしやすそうなスカッとした構成になっています。

本に載っているウッツォン家族の暮らしの写真を眺めると、
子供たちがえんがわで寝転んだり、
台所でおかあさんとパンを切ったり、
暖炉の前でお父さんの膝枕で火を眺めたり、
この住宅で育ったら楽しいだろうなぁ・・と楽しい気持ちになりました。
構成の整ったきれいな空間構成と、そこで営まれる豊かな暮らしの風景。
住宅設計の大切なポイントをきちんと押さえた素敵な住宅です。

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ヨーン・ウッツォン手描きスケッチ
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2020.9.1

独立して自分の事務所を設立した頃、約1カ月半の北欧建築旅行をしました。
コペンハーゲンに滞在した時に、ウッツオンの設計した教会があると聞き
脚を運んだのがこの「バウスヴェア教会」。

コペンハーゲン郊外の駅で降り、少し歩くと教会の外観が見えてきます。
「あれっ」と思うほど素っ気ない外観。工場か倉庫のよう。

外観からは想像のつかない豊かな内部空間。
簡素で清廉なインテリア、入道雲のような天井から白い透明な光が落ちて来ます。

ウッツオンのコンセプトスケッチのトレース。
ハワイの海岸で雷雲を眺めている時に「雲の下に集う教会」という
アイデアが生まれたとの事、詩人ですね。

プランは2.2Mのグリットで構成されたシンプルなもの。
東西に伸びる骨格に居室と光庭が交互に埋め込まれてゆきます。

こちらがダイナミックな断面、
「雲の下に人々が集い、雲間から光が差し込む。」
そんな美しい情景を見事に空間として実現させています。
建築はプランが命と思っていますが、断面もまた決定的に大切な要素だと
思い知らされた体験でした。

またウッツオンの娘、リンが担当した美しいテキスタイルの色使いも秀逸。

この時は独立したばかりで今後の仕事の見込みもなく、不安な心を抱えながら
の建築旅でした。
ただこの「バウスヴェア教会」で天井から落ちてくる光を感じている時に
「建築っていいなぁ・・・仕事もなんとかなるんじゃないかしら」と訳もなく
勇気が湧いて来たのを覚えています。
いつかトレースしなければと思っていたのですがやっと出来ました。
思い出の建築です。(^^)

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ヨーン・ウッツォン北欧手描きスケッチ
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2020.7.2

建築家ヨーン・ウッツォンがマヨルカ島につくった自邸「キャン・リス」
僕はこの家のプランが大好きで、何度も眺めても飽きません。
「たとえば鳥が崖の上に巣をつくるように・・」
ウッツォンがこの家をつくる時に語った言葉、
四つのブロックを角度を振りながら、配置したなんとも不思議で魅力的なプラン。
まるで抽象絵画を見ているようです。

合理性、機能性を優先するモダニズムの建築とはまるで違う構成。
ダイニング、リビング、寝室を4つのブロックに振り分けた分棟プラン。
部屋から部屋への移動はすべて中庭を通らないといけません、機能的では
ないけれど野性的な面白い平面。
プランをよく眺めると半分は外部空間、野生の鳥が樹の先つくった巣が
いくつか並んでいる、そんな雰囲気です。

今回はトレースをしていると、まるでメキシコの古代神殿をなぞっている
ような感覚になりました。
しばらく海外へは行けそうもありませんが、トレースする事で空間を想像
し味わうのはとても楽しいですね。(^^)

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ヨーン・ウッツォン手描きスケッチ
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