ono設計室が手がけた記念すべき最初の新築住宅、それが、「いぬとそらと暮らす家」です。笑顔が爽やかな30代のご夫妻と愛らしい2人のお子さん、そこに2匹の元気な小型犬を加えた「4人+2匹」のご一家──心地よい陽だまりそのもののような明るいご家族が暮らす家です。完成して約1年が過ぎたある日、あらためてお宅を訪ね、ono設計室との住まいづくりを振り返っていただきながら、実際の住み心地などについても率直に語っていただきました(ちなみに、お話の間、小野は退席して、おふたりに本音を語っていただいたんですよ)
ご主人:小野さんとは知人が営む建設会社の紹介で知り合ったんです。初めて会ったたときから、小野さんはとてもよくこちらの話を聞いてくれたことを覚えています。すぐにいいな、と思ってお願いすることを決めました。いつも笑顔で穏やかな方なので、ヒアリングでもこちら側の条件や希望をいろいろと率直にお伝えすることができたように思います。
奥さま:提案するときには図面とスケッチを持ってきてくれて。で、もう少し案が絞られてきたら、今度は模型をつくってきてくれました。小野さんは、いろんな場面でスケッチを本当にたくさん描いてくれるんです。平面図だけだと素人はよくイメージできないところがありますよね。スケッチがあると断然イメージがしやすくて、それはとても助かりました。
奥さま:この家で暮らして1年ちょっと経ちましたが、暮らしごこちはとてもいいです。とくに気に入ってるのは、2階のリビングの大きな窓ですね。
ご主人:階段をあがってきて大きな窓があるというのは本当にいいです。これは小野さんの最初の提案からあって。最初から僕ら2人ともすごく気に入ってました。
ご主人:家具については、もともと僕らは前から使っていた物を使うつもりだったんです。でも、小野さんに、「家具は大切だから、まずは一度家具屋さんに一緒にいってみましょう」と勧められてね。
奥さま:で、見に行ってみるとやっぱり空間に合ったものがいいね、ということになって。
ご主人:それで、この大きなテーブルと椅子とテレビ台を小野さんと一緒に家具屋さんに行って購入しました。
店で見ると家具はたいてい小さく見えて、いざ家に運ぶと想像以上に大きかったということがありますよね。そういうことがないようにと、小野さんは購入予定のテーブルと同じ大きさのベニア板を用意してくれて、「わりと大きなテーブルなので、このあたりの位置にこのくらいの大きさになるけど、どうでしょう?」ってきちんと示してくれて。小野さんの配慮のお陰で、実際の家の中での家具の存在感がわかって、安心して購入することができました。
奥さま:ライトは、最初、私はペンダント式はいやだなって思っていたんです。なんとなく暗い印象があって、天井に付く明るいシーリングライトがいいと思ってたんです。そうしたら小野さんが、ペンダントライトでも十分な光量があるんですよといって、明るさを電気屋さんで計って、数値で示してくださって。
ご主人:それまで僕らは賃貸に住んでいて、なんとなく部屋の照明が暗めだったので、やっぱり新居は明るいほうがいいよね、と思いこんでいたんです。でも、小野さんが、じつは必要なところに十分な明るさがあれば、空間全体を明るくする必要はないと説明してくれて。
奥さま:ここにこういう照明を付けるとこのくらいの明るさになります、というのを数値で示してくださったので、私も納得できました。
ご主人:結果的に暗いことは全然なくて、むしろ落ち着く雰囲気になっていて、部屋のアクセントにもなり、今は僕らふたりともペンダント式にしてよかったと思っています。
ご主人:実際に家づくりを始めて、小野さんは、事前に想像していたよりずっとこちらの意見を通してくれるんだなというのを実感しましたね。1階に僕の書斎をつくってもらったんですけど、当初は予定していないものだったんです。でも、途中でなんとかつくってほしいとお願いしたら、空間にうまく組みこんでくれて。素人では出てこない発想を示してくれてさすがだと思いました。僕の職業関係の本がたくさんあるんですが、本棚をたくさんつくりつけてもらえて、お陰ですっきり収納することができています。
なんていうか、思ったことを小野さんに率直に伝えると、それをちゃんと吸い取って形になるようにしてくれるんですよね。機能的で、空間のちょっとしたアクセントになるような遊び心もある発想は、本当に建築士ならではのものだと感心しています。
ご主人:お風呂は、小野さんのこだわりがいちばん反映されているところなんです。浴室専用のベランダがあって。そのベランダは壁に囲まれているので、外からは一切見えないようになっています。なので、入浴中にベランダまで出て空を眺めることができるんです。半露天風呂のような感覚ですよね。たとえば冬は、雪が降るとそのベランダに積もるので、下の子は初めての雪遊びをお風呂に入りながら体験しました。なんて贅沢な体験だろうと思いながら見ていました。
奥さま:お風呂に入りながら、雪だるまをつくって、冷えたらまたお風呂に戻って温まって。
ご主人:家にいながらにして露天感覚を楽しめるこのお風呂は、小野さんの会心の作だと思います。
ご主人:設計士という職業のイメージから、僕は、施主にとってちょっと背伸びをするような高価なものでも、質がよければ勧められるのだろうと思っていたのですが、小野さんは、「そこはそんなに無理しなくていいと思いますよ」っていう部分も教えてくれるんです。暮らしていく上で無理のないように、堅実なお金のかけどころっていうのをちゃんと教えてくれるんですよね。
その一方で、お金を少しかけてでもつくったほうがよいもの、買ったほうがよいものは、もちろんしっかり推薦してくれる。たとえばうちでいうと車庫がそうです。
奥さま:最初私は、比較的安価な既製品のカーポートで十分だと思ってたんです。
ご主人:僕のほうは、小野さんが提案してくれた、壁と屋根がきちんとある車庫をつくるのがいいと思っていたので、最終的には小野さんと2人で妻を説得する形になりました。で、今、車庫をつくっていちばん喜んでいるのは、じつは彼女なんです。
奥さま:そうなんです。車を降りて、雨にぬれずに玄関まで行けるのがこれほど便利なこととは思いませんでした。あとは、なによりも車庫の外観を家と同じ素材を使って、連続したつくりにしてもらったので、通りからみてとてもアクセントになってるんですよね。なので、今は本当につくってよかったと思っています。
ご主人:庭も小野さんの勧めで作りました。庭の手入れはこれから本格的に進めるところですが、何よりも犬たちが本当に喜んで駆け回っています。お陰で、散歩に行く必要がなくなってしまったほどなんです。
ここに住んで1年になりますが、アフターフォローについても、小野さんがいるといろいろと助かります。竣工後、建設会社が1ヵ月点検、3ヵ月点検とやってくれるのですが、その際に小野さんも必ず来てくださって、工務店の仕事を暮らす側の視点からひとつひとつチェックしてくれるので、とても安心感があります。
奥さま:じつは私たちは、途中まで、この家が小野さんが独立されて初めての仕事っていうのを知らなくて。
ご主人:そうそう、小野さんもあまり言わないようにしていたのかもしれないです。無用な不安を抱かせないために。で、完成したら、「最初の記念すべき物件」とご自分から言うようになって(笑)。
奥さま:「やっぱり最初なので思い入れが違うんですよ」って言ってくれてますね、今は。
ご主人:しかも、この家が日本エコハウス大賞に入賞したんです。僕らもそんな家に住めているということにあらためて喜びと誇りを感じて、ますますこの家が好きになりました。
奥さま:小野さんに設計をお願いして、本当によかったと思っています。これからも、家族の成長などに合わせて、この家のことをいろいろと相談していければと思っています。
取材が終わったあと、ご夫婦とお話をする時間を少し持つことができました。その間じゅうふたりのお子さんと2匹の犬たちは、奥さまと一緒にベンチにすわって会話に加わったり、窓の下に取り付けたご主人考案の“室内縁側”の上を歩いたり、丸く滑らかな設えにした柱をポールがわりにして遊んだり、床に気持ちよさそうにねそべったりしていました。その様子から、お子さんたちや犬たちがそれぞれに、この家での生活を本当に楽しんでいることが伝わってきて、設計士として心からうれしく感じました。
ご夫妻、貴重なお時間をいただきありがとうございました。
今後もどうぞ末永くおつき合いくださるようお願いいたします!
「いぬとそらと暮らす家」
House with Dog & Sky
3方を家に囲まれた敷地に建つ住宅のプロジェクトです。2階リビングとする事で、プライバシーを確保しつつ日照、通風、環境の良い場所を住まいの中心にしました
「いばらきデザインセレクション2016」でテーマセレクション部門「茨城のおもてなし」に選定された「3 HOUSE at OFFICE」は、「保険ぷらっと水戸駅南口店」さまのオフィスです。このオフィスの最大の特徴は、建て物の内部に三角屋根をもつ「3つの小屋」があること。完成して約1年半がすぎたころ、実際のオフィスの使い心地についてやono設計室とのオフィスづくりについてあらためてお話を伺おうと、副店長のSさんをお訪ねしました。(今回も率直なご意見な伺うために、小野は同席せずに話していただきました)
私が、設計の打ち合わせに加わったときには、すでにこの小屋のアイデアの枠組みは決まっていましたから、おそらくこの3つの小屋をオフィス内につくるという案は、当初から小野さんの頭の中にあったのだと思います。
最初に聞いたときはびっくりしましたけど、ああ、これはうちの社長の好みにぴったりだなと思いましたし、私自身も、これは楽しそうだなとわくわくした気持ちになったことを覚えています。もちろん、このときはまだ3つの小屋がオフィスの中にできるとまでは想像していませんでしたが(笑)。
3つの小屋は、まるで「3匹のこぶた」の童話に出てくるように、小屋の外壁も内装もサイズもちょっとずつ違っているんです。
小屋の外壁が白いせいか圧迫感はまったくないですし、しかも、中に入ると居住性がとてもいいんですよ。
保険のご相談は内容が多岐にわたるので、お客様の滞在時間が平均2時間にもなります。ですので、お客様がくつろぎながらじっくりお話しできる空間があることが私たちにとって最優先の条件だったんです。
この小屋のアイデアは一件突飛に思えますけれど、じつは私たちの条件を満たすものだったんです。
入っていただければわかる通り、小屋の内部はとても落ち着く空間になっています。
このくらいの広さの閉じた空間にいると、人はとてもリラックスできるみたいですね。
内部は家具も含めて木を多用したつくりで、照明も暖色系のライトを選んでいただいたので、よくお客さまに「リビングにおじゃまして話を聞いているような感覚になる」と言っていただけるんです。
設計の段階での私の役目は、スタッフの代表としておもに事務的な面から小野さんに要望を伝えるというものでした。
なかでもいちばん私がこだわってお願いしたのは、「授乳室」と「おむつ替えスペース」の設置です。
うちを訪れるお客様にはお子様連れの方がとても多いので、長い時間安心して相談できる環境が整っているかどうかがキーポイントとなります。
たぶん狭いスペースでの水まわりの設置に小野さんは苦労されたのではないかと思うのですが、結果的には、お子様連れの方にこの授乳室とおむつ替えスペースの存在は本当に喜んでいただいていますので、妥協せずに小野さんに要望をお伝えし、実現していただけて心からよかったと思っています。
カウンターの位置や動線などについても、小野さんはとても細やかな気づかいをしてくれました。
「前の店舗のときはこの間隔でしたけど、どうですか、もう少し開けましょうか?」というように、数センチ単位で動かしながらいちばん私たちが働きやすい位置を決めてくれて。
小野さん、私たちの店舗で働いたことがありました?なんて思ってしまうほどの細やかさでしたね。
そうやって調整してくださったからこそ、1年以上たった今も、紙の資料が多いオフィスにもかかわらず、このように乱雑になることなく片付いているのだと実感します。
今考えると、これだけの小屋をオフィス内に実際に建てるというのは、建築関係の申請とか許可を得るのってきっとすごくたいへんなことだと思うのですが、小野さんはさらっとスマートにやってくださいました。プロフェッショナルだと感じます。
そう、小野さんの設計には遊びごころがあるところが素敵ですよね。
たぶん小野さんは、施主が要望を伝えれば伝えるほどわくわくする方なんじゃないでしょうか。
このオフィスが完成するまでの間のことを思い返しても、楽しそうに作業していらっしゃった小野さんの姿しか浮かばないんです。
遊び心があって、しかも居心地がよくて、働きやすい。
何よりお客さまが「あ、入りやすそうだな」「ここはくつろいで話ができるな」と心から思っていただけるオフィスをつくってくださったことに、スタッフとして心から感謝しています。
オフィスの中に3つの小屋をつくるという冒険的な試みでしたが、Sさんを始めとするスタッフの皆様が率直な希望を聞かせてくださったお陰で、スタッフの方にとって働きやすく、何より店舗を訪れるお客様にきちんと心地良さを提供できるオフィスとなっているようで、安堵いたしました。
時間があまりない中での作業でしたが、個性的かつ機能的なオフィスをデザインすることができ、しかもそれが「いばらきデザインセレクション」の選定もいただき、「3 HOUSE at OFFICE」はono設計の代名詞的な作品のひとつになったと思います。
Sさん、お忙しいなか取材に応じていただきありがとうございました。また近いうちに事務所にお伺いしますね。
「3つの小屋のあるオフィス」
3 house at office
合理性、効率性だけでなく住宅のような居心地や、レストランのような遊び心のあるおもてなし空間を、事務所のスペースに織り交ぜていこうというコンセプトのオフィスです
Mさまご一家は、30代のご夫妻と幼稚園に通う年子のお子さん2人の、4人家族です。ご主人も奥さまも建築やインテリアへの造詣が深く、スタイリッシュな印象の住宅となりました。引き渡しを目前に控えたある日、ご家族をお訪ねして、約1年半にわたるono設計室との家づくりについて振り返っていただきました。(小野はいつものように退席して、ご夫妻に本音を語っていただきましたよ)
奥さま:小野さんのことは建設会社の方から紹介いただきました。「うちもそろそろ家を建てようと思うのですが、お勧めの建築家の方はいますか?」と尋ねたら、「これから活躍が期待されるお勧めの人がいますよ!」と紹介していただいたのが小野さんでした。
ご主人:ぜひ紹介してくださいお願いして、お会いしました。オープンハウスなどではなく、きちんと会ってお話しした建築家は、小野さんが初めてでした。
奥さま:穏やかで柔らかな雰囲気で、とても話しやすい方だったので安心しましたね。建築家さんの中にはもっと押しの強い印象の方もいると思うのですが、小野さんはまったく違っていて。
ご主人:建築のテイストについて、正直にいうと、その時点で小野さんのサイトで紹介されていた作品は、私たちが求める雰囲気とは少し異なるところもあったんです。私たちは、完全にモダンなテイストの家にしたかったので。でも、お話ししてみたら、小野さんもモダンデザインに精通されていて、この方なら私たちの希望をかなえてくれるだろうと直感的に思いました。
奥さま:私たちも素人ながらはっきりとした好みがあるので、「いろいろと率直に意見を言う場面があると思いますが、それでもかまいませんか?」と一応確認して。
ご主人:そうしたら、問題ありません、気になることはぜひなんでも伝えてほしいと言ってくださって。小野さんの建築に向き合う想いを感じて、ぜひこの人に賭けてみようと思いました。
ご主人:設計をお願いすることになり、早速、家に対する私たちの希望について、いろいろヒアリングを受けました。
奥さま:小野さんがすごく細かなメモを取っていたことをよく覚えています。
ご主人:「これは実現させたいということは?」と聞かれて、まず外観でいえば、屋根の形状は、切妻や寄棟などの三角形のものではなく、平らな陸屋根がいいということ。それと、雨の日も濡れずに出入りできるガレージがほしいと伝えました。
奥さま:実際に家を建てる土地や周囲の環境についても、小野さんはいろいろと調べてましたね。
ご主人:その後、最初に小野さんから提案されたプランが、じつは今の家にほぼそのままの形で生かされているんです。細かな部分については変更してもらいましたが、ベースとなるプランは、小野さんの初回プランそのままです。
奥さま:私たちは、「モダンで四角い家がいい」と漠然と思ってはいたのですが、具体的なイメージはまったく描けていなかったんですね。私は、先入観で家=総2階だと思っていたので、小野さんのプランを見て、わあ、平屋!と驚きました。そして、たしかに平屋はいいかもしれないと思いました。
ご主人:部分的に2階もある仕様なんですけれどね。子どもたちの部屋が2階になっています。
奥さま:家をつくるときって、必然的に将来の家族の形をいろいろと考えますよね。歳を取ってからも平屋だと暮らしやすそうだなと思いました。
ご主人:そう、子供たちが成長してこの家を出たあと、夫婦の日常が平屋の部分だけで成り立つ家なら、僕もそれはすごくいいなと思いました。動線や耐震の観点からも平屋はいいと小野さんから説明もあって、ぜひこのプランでとお伝えしたんです。
奥さま:外壁は白系にしたいと言うと、小野さんがこの色を提案してくれました。玄関まわりの壁面に木材を張ったのも、小野さんのアイデア。窓枠は、当初はシルバーだったのですが、お願いして黒に替えてもらったんです。全体的によりメリハリがついて、いっそう私たち好みの外観にできたと思います。
ご主人:ご近所の方や友人たちからは、ギャラリーみたいだね、などといわれますけれど(笑)。
奥さま:形が四角くて、中央にガラスの壁面があったりしますからね。ガレージも一体化しているので建物の横幅はかなりあるんですけれど、ガラス越しに風景を見通せる工夫のお陰で、圧迫感がないんです。そこがとても気に入っています。
ご主人:そのあたりは小野さんの設計のポイントのひとつだったと思いますね。ガレージから建物の反対側まで見通せる家っていうのはうちくらいかもしれない。
奥さま:家の内部については、キッチンはぜひアイランド型のものにしたいとお願いしました。家族と同じものを見て、話をしながら料理したいという気持ちがすごくあって。値段も高めなんですけれど、私にとってはどうしても実現したいポイントのひとつだったのでとても満足しています。
ご主人:うちの場合、玄関を入ってすぐにキッチンがあるという配置なので、来た人はみんな驚きます。
奥さま:え、そう?
ご主人:ほら、キッチンって普通はちょっと隠したいようなところもあるから、奥のほうに配置することが多いでしょう。
奥さま:確かにうちの場合は、LDKの中でもリビングのスペースは小さくて、完全にキッチンとダイニングが主役になりました。でも、それでいいと思っているんです。キッチンは気に入ったアイランド型にできたし、しばらくはソファなどおかずにキッチン&ダイニングを家族のメインの空間として使おうと思っています。ここがいちばん居心地のよい場になればいいなと思っているんです。子どもたちと一緒に料理できたら楽しそうだし。
ご主人:大きな掃き出し窓からの日差しも心地いいですし、家族みんなが自然と集まる場所になると思います。
ご主人:小野さんは、当初からこの家を3つのゾーンに分けて考えていたんです。玄関を入ってすぐのLDKが、家族みんなが集う「パブリックゾーン」。その隣に洗面、トイレ、お風呂、家事室が一列に並ぶ「サービスゾーン」があり、いちばん向こう側がそれぞれの個室がある「プライベートゾーン」になっています。とてもシンプルで機能的なつくりです。余計なスペースがないから、この先もずっと飽きずに暮らしていけそうです。
奥さま:小野さんが家事室を初回のプランから提案してくれたことが、とてもうれしかったですね。とくにこちらからはリクエストしていなかった分、小野さんの、そこで暮らす人への細やかな配慮を感じました。うちは男3人分の洗濯物があって、つけ置き洗いがマストなので、家事室内にお湯が出るシンクも付けてもらいました。洗ってすぐに干せるから、とてもラクになりそうです。
ご主人:僕のほうは、1階の夫婦の寝室に続くウォークインクローゼットの中に、ちょっとした書斎をつくってもらったことがとてもうれしくて。趣味のコレクションのようなものを飾っておく場所があるというのは良いものですよね。あとは、仕事を持ち帰ったときなども、LDKのパソコンスペースではない、自分だけのモードで集中できる場所があるのは、とてもありがたいと感じています。
ご主人:今、引き渡しを間近に控えて感じることは、僕ら自身も一緒に家づくりに関われたという確かな実感があるということです。打合せも含めて、家づくりの過程が本当に楽しかったです。
奥さま:この時間がもう終わってしまうと思うと、ちょっと寂しいくらいです。
ご主人:少し生意気なことをいわせてもらえば、僕らの家づくりに関わってもらうことで、小野さんの設計の幅もまたひとつ広がったんじゃないかなと思っているんです(笑)。細かい部分ですけれど、小野さんがこれまでにやらなかったような、窓枠に黒をつかったりというようなことも、僕らのリクエストで取り入れてもらったので。
奥さま:家に関することはなんでも聞いたりお願いしたりできる信頼関係を築けましたから、小野さんも、建築的に難しいところについては、その理由をきちんと説明してくれるし、できそうなことについては「じゃあ、やってみましょう、探してみましょう」とこちらの気持ちになって応えてくれました。
ご主人:その小野さんの姿勢があってこそ、これだけ僕らも家づくりに携わることができたのだと思います。小野さんをはじめ、現場監督や職人さんたちは、皆さんとても仕事熱心で責任感に満ちた方々でした。そういうプロと一緒に和気あいあいと楽しく家づくりができたことは、何にも代えがたい経験です。後悔することは何もないし、今後、もし何か不具合が起こったとしても、あの人たちならすぐに駆け付けてくれるだろうという安心感があります。そういう方たちに、自分たちの家をつくってもらうことができて、今、心からの幸せを感じています。
Mさんご夫妻とは、土地の件もあり約2年に渡って設計から竣工までの日々をお付き合いいただきました。取材に応じていただいた日が、引渡しの直前でしたので、あらためて私自身も完成したお家を眺め、感慨にふけりました。いつも前向きな姿勢で熱心にお話しになるご夫妻と向き合いながら、なんとかこのお2人の情熱に応えたいと図面と向き合った日々が思い出されます。現場での打ち合わせのとき、いつも出してくださった浅漬けが本当においしかったなぁ。息子さんともすっかり仲良くなったので、このお家で成長されていく姿を私も“親戚のおじさん”のような気持ちで心から楽しみにしています。
今後もどうぞ末永くおつき合いくださるようお願いいたします!
「 f+c HOUSE 」
flame+cube house
f+cHOUSEはフレーム(車庫)と2階建てキューブ(プライベートゾーン)と平屋キューブ(パブリックゾーン)の組み合わせで構成された住宅
Sさまご一家は、30代のご夫妻と2歳になるご子息の3人家族です。新築した「ふたつ屋根の下」は、奥さまのご実家がある敷地内に、母屋と並ぶように建てた寄棟屋根のシンプルな平屋。小野が手掛けたのは「ひとつ屋根」ですが、世帯同士の素敵な関係性がこの先もずっと育まれることを願い、敷地内全体の関係性を考えて設計したので、この作品名をつけました。ご夫妻にとって、ono設計室との家づくりはどのような体験だったでしょうか。竣工して半年が過ぎた初夏のある日、ご家族を訪ね、小野がいない場で本音を語っていただきました。
ご主人:じつは、僕自身も一級建築士の資格を持っていて、以前から自分の家の基本設計を作成してはいたのですが、どうしても自分の理想とするような計画になりませんでした。誰かいい建築士はいないだろうか、と知人に相談したところ僕の趣味や建築観に合うのでは、と紹介してもらったのが小野さんでした。さっそくホームページで作品を見てみると確かに自分の好みと共通する部分が多く、それで妻と妻の妹と3人で小野さんの作品を見に出かけたんです。
奥さま:最初に見に行ったのは、「春霞の家」でしたね。ちょうど内覧会をやっていて、そこで小野さんに初めてお会いしました。こちらが抱いていた建築家のイメージとはまったく違う、とても気さくで穏やかな方で、逆にこちらが驚いてしまったほどです(笑)。
ご主人:僕は、すでに小野さんの作品自体にかなり惹かれていたのですが、お会いして小野さんの人柄に触れ、もう自分たちの家づくりを依頼するのはこの人しかいないと確信しました。で、後日、同じ敷地内に住む妻の両親も誘って、みんなで小野さんの事務所に打ち合わせに行ったんです。
奥さま:当初の計画では私たち夫婦の家だけでなく、同じ敷地内に建つ私の両親の家も新築する予定だったんですね。それで、一度基本プランを作成してもらおうということになって。
ご主人:打ち合わせから1ヵ月くらいで最初のプランを見せていただいたのですが、もうそのプランが僕らの想像をはるかに越える素晴らしい内容で。僕が引いた図面とは別次元の家でした。なるほどこう来たかぁって、思わず唸りましたね。
奥さま:プロってやっぱりすごいなぁって、みんなで感激したのを覚えています。私たちからは、「2棟間の行き来がしやすくて、かつ、それぞれの世帯が独立しているような家にしたい」とお願いしていたのですが、もう本当にその通りのプランで驚きましたし、小野さんはスケッチがすごく上手で、それが私のような素人にもすごくわかりやすいんですよね。ちょうど私たち夫婦に子どもができたころで、絵の中に子どもを含めた3人が描かれていてとてもうれしかったのを覚えています。
ご主人:2つの家が渡り廊下でつながっていて、屋根は2つあって別棟なんだけど、2棟が一体となっている、とても素敵なプランでした。しかも、その渡り廊下が、私たち夫婦の趣味の空間を兼ねていてね。
奥さま:そう、でも残念ながらその後こちらの事情がいろいろと変わり、結果的には、私たち夫婦の家の設計だけをお願いすることになったんです。それでも、今の家のプランも、当初のものから大きく変わってはいないよね?
ご主人:そうだね。変更してもらったのは、当初の小野さんの提案では、一部が2階建てになっていたところを、歳を重ねたときのことを考えて平屋に変更してもらったことと、あとは、渡り廊下になっていた趣味の空間をこちらの家の中に取り込んだということ、その2つくらいだね。
奥さま:プランを変更しても、小野さんは本当にこちらの話をよく聞いて理解してくださって、同じ敷地内に住む両親や妹への想いを変わらず持ち続けてくれたのがうれしかったですね。
ご主人:新居で暮らし始めて半年になりますが、とにかく「こうすればよかったな」という後悔がひとつもないんです。
奥さま:本当にそう。ないんですよ(笑)。
ご主人:僕ら家族は心から満足しているし、かつ小野さんらしさ満載の家になっていると思います。天井はなるべく低くして、一方で建具の高さを天井と同じ高さまで上げることで、閉塞感がまったくなく、空間全体、家全体がつながっていくイメージがあって。これは小野さんが得意とする手法ですし、僕も天井は低めのほうが落ち着くので、とても居心地がよく気に入っています。
奥さま:私としては、子どもが引っ越した瞬間から家中をぐるぐる走り回ってくれたのがうれしかったですね。いちばんこの家を満喫しているのは、息子かもしれません。
ご主人:どの空間も魅力がありますが、この家の主役を考えると、やはりこの開放感あるリビングになると思います。
奥さま:ほとんどの時間を家族がここで過ごしていますから。
ご主人:庭に向かった開口部には造作の木製建具を使っていますが、もちろんサッシと比べれば値が張るんですけれど、この開放感・雰囲気はサッシでは決して出なかったものだと思います。ここだけでも木製建具にしてもらった価値は十分にありました。
奥さま:ここから見える庭も、小野さん、造園家さんへお願いして一から作り直してもらって。こちらの希望どおり子どもが遊べるスペースや小さな畑用のスペースもつくってくれて、私たちに加えて、前の家に住む母もとても気に入ってくれています。
ご主人:リビングのアールのついた天井も自慢です。小野さんに一部だけ天井高を変えて遊んでみたいと希望したら、このかまぼこ型の天井を提案してくれて。「和らぐ雰囲気が出るのでどうですか」って。
奥さま:小野さんのスケッチでこの天井を見たときは、もう、こんなにおしゃれな部屋でどうしようと思いましたね(笑)。あと、テーブルやテレビ台も造作してもらってよかったよね。
ご主人:テーブルは、小野さんと一緒に家具職人さんのところに行って、テーブルの素材となる木材の丸太から見せてもらって。ずっと長く使うものだと思うので、テーブルにはちょっとお金をかけて良いものをつくってもらいました。
奥さま:テレビ台のほうは、最初私は、テレビはソファに座ったときに正面に来る位置に置くのだと思っていたのですが、小野さんから「この部屋の主役は開口から見える景色で、テレビは主役じゃないですよね」って聞いて、すごく納得がいきました。
ご主人:部屋の隅に置いても見やすいよう斜めにカットされたテレビ台の形は、既製品では実現しないもので、僕もとても気に入っています。
ご主人:小上がりになっている和室は、こちらの希望で入れてもらいました。来客用のスペースとして欲しかったのと、引き戸を全部閉めるとLDKが片付いていなくても、玄関から和室に直接来客を通せるので重宝しています。この畳は小野さんが選んでくれたものですが、この色には驚きましたね。お陰ですごく洗練されたモダンな和室になりました。
奥さま:私は、緑色じゃない畳があるって初めて知りました(笑)。
ご主人:ほんとによい色味で、床材とマッチしてリビングとも違和感なくつながり、空間に奥行きを与えてくれています。冬は、引き戸を閉めればリビングだけを効率的に暖房することもできますし、全体的にとても機能的な家でもあります。
奥さま:リビングに続く趣味の部屋のほうは、いわゆる書庫ですね。書籍をすっきり納めたかったので、この収納空間はとてもありがたいし、入り口の形が天井に合わせてアールになっていて、入るのにワクワク感があります。この空間だけは寝転がって使いたいと思ったので、床を絨毯にしてもらいました。ここを含めて、収納スペースは、家じゅうのあらゆるところにつくっていただいて、それは本当に助かっています。
ご主人:こちら側の事情もあって、うちの場合は設計期間が少し長くプランがまとまるまでに1年くらいかかりました。でも、その1年間は、本当に楽しい時間でした。
奥さま:母が洋菓子づくりが得意で、いつもお菓子を持って一緒に打合せに行っていたのですが、小野さんがそれを心待ちにしてくださっていて。母も、小野さんがいつもおいしいコーヒーを淹れてくださるので、「それに合うお菓子をもっていくのよ!」って。作り甲斐があったのだと思います。
ご主人:竣工して半年が経ち、あ、もう小野さんの事務所に行く必要がないのかって、ちょっと寂しかったりしますね。家を建てるとなると1年くらいずっと付き合うことになるので、建築家としての技術、実力、センスに加えて、人柄はとても重要ですよね。
奥さま:小野さんの穏やかな人柄は本当に魅力です。泣いていた子どもが、小野さんの声を聞いているうちにすやすや寝ちゃうくらいですから。
ご主人:「一緒に家をつくっている」という感覚を施主側にもきちんと残してくれる建築家だと実感しています。僕たちが率直に伝えたいろいろな希望を、理想的な形で実現してくれました。小野さんに頼んで本当によかった。これからも、家のメンテナンスや家族の成長とともに、ずっと長くお付き合いしていければと思っています。
奥さま:小野さん、また遊びに来てくださいね。母のお菓子を用意してお待ちしています!
Sさまご夫妻とのお打ち合わせでは、毎回お母さまが手作りのお菓子を持参してくれました。打ち合わせに入る前に待ちきれずにまずはお菓子を…そんな儀式(?)に優しい笑顔でお付き合いくださるSさまご家族の関係性、空気感が本当に良い感じで、今も強く印象に残っています。僕が手掛けたのはご夫妻の家なのですが、ご両親や妹さんの存在もずっと意識しながら設計をしました。ご家族全員に喜んでいただける家になったのであれば、心から嬉しく思います。ご主人のSさまが建築に造詣が深く、意思の疎通がスムーズだったことにも助けられました。初めて会ったときは赤ちゃんだったご子息も、もう2歳。この家でどんなふうに育っていくのか、この先もずっと見守っていけたら幸せです。
今後も末長いお付き合いをどうぞよろしくお願いいたします!
「ふたつ屋根の下 」
futatsu yane no sita
母屋と並ぶように建つ寄棟屋根のシンプルな平屋。お互いの世帯を思いやる、ちょうど良い関係が生まれるよう設計を進めました
「母の家」は、30代後半のEさんがお母さまと暮らす家です。もともとこの地に建っていた2階建ての家を解体し、新たに平屋建てを新築しました。当初は、居住空間と寝室空間を分け2棟が寄り添うようなプランを考えましたが、動線をシンプルにして年齢を重ねても暮らしやすいプランに練り直しました。インテリアや建築に詳しいEさんからは学ぶことも多い仕事でしたが、果たしてEさんにとってono設計室との仕事はどのようなものだったでしょうか。今回も小野がいない場所で率直なご意見を伺いました。
Eさま:もともと今の家が建っている土地に祖父母の代に建てた2階建ての家があり、僕はその家で育ちました。4人家族でしたが父が亡くなり、姉が嫁いだため、ここ数年は築40年の家に母と僕の2人で暮らしていました。その家の老朽化が進み、たびたび修理が必要となっていたのでそろそろ建て替える時期かなと思い建て直しの検討を始めたんです。
─── ono設計室に依頼することを決めたきっかけは?
Eさま:僕はインテリアにとても興味を持っていまして、以前から家を建て替えるならぜひ建築士の方に設計を依頼して、細部まで自分好みの家にしたいと考えていました。
それで休みのたびに住宅設計に定評のある水戸近辺の設計事務所を探しては、連絡をとって建築士さんに会って話を聞いたり、プランを作ってもらったりを繰り返していたんです。思い返すとだいぶ気負って探していましたね(笑)。でもなかなか心からお願いしたいと思う方に出会えなくて。小野さんにたどり着くまでに1年ぐらいかかりました。
─── ono設計室はどのように探されたのでしょうか。
Eさま:ほかの事務所でいくつかプランをつくってもらっていたのですが、どの人にしようか決めかねているときに偶然インターネットでみつけたんです。ああ、とても僕好みの家をつくる設計士さんだなと思い早速連絡して会いにいきました。そうしたらなんと僕が愛用しているのと同じブランドの洋服を小野さんも愛用していて。最初に会ったときから趣味嗜好というか、感覚が自分ととても近い方だなと思いました。それでぜひプランを作成してもらいたいとこちらの希望を伝えたんです。
Eさまのご希望
・平屋建て
・寺のような外観
・高気密高断熱
・よい素材を使った長持ちする家(予算の範囲内で)
・年老いても住みやすい家
・元の家にあった何かを再利用した家
Eさま:こちらの希望を伝えて早速プランをつくってもらいました。最初のプランは今とはちょっと違う2棟が並んで建っているようなプランだったのですが、僕はもうそのプランがとても気に入りまして。外観のデザインやゾーニングがとても好みで、その提案にほれ込みすぐに小野さんにお願いしようと決めました。
ただ予算的な都合と、もともとある庭をかなりつぶすことになるプランだったのでそこをなんとかできないかと何度も何度も話し合いを重ねました。
小野さん自身も母の暮らしのためにはもう少しシンプルな動線のほうがいいんじゃないかと考えてくれたようで、庭についてもできればそのまま残す方向で一から検討し直してくれました。
─── 庭には何か特別な想いがあったのですか?
Eさま:そうですね。いや、普通の庭なんです。ただ、祖父の代からそれなりに家族みんなで大切にしてきた庭だったので、壊してしまうことには少し抵抗がありました。その想いを汲んでくれてプランを考え直してくれたのはとてもありがたかったです。
打ち合わせは対面で2週間か3週間に一度お会いして、あとはメールでやりとりしながらプランを練りあげていきました。プランの変更だけでなく、使用する材質やデザインについて僕のこだわりがものすごく強いので、本当に苦労されたと思います。こちらから細かな要望をたくさんお伝えしたのですが、その一つ一つについてちゃんと調べて、親身になって対応してくださって。
僕のような素人が伝えたものでも小野さんがよいと判断したものは積極的に採用してくれるし、それがあまり良くないものの場合には理由を説明したうえで代替案をきちんと示してくれるので、こちらは安心して選択していくことができました。
だから今振り返ってみても、小野さんとの家づくりは本当に楽しくて、自分の新しい家を建てるためのプロジェクトの一員のような感覚でずっといることができました。いろいろ決断することも多くてそれなりに大変ではありましたが、本当に夢中になれる時間でした。
だから家が完成した後はちょっと小野さんロスのようになってしまって(笑)。一時期何に対してもやる気がまったくなくなってしまったくらいなんです。それくらい小野さんとの家づくりは僕にとって充実した時間でした。
─── 家の中で具体的に気にいっているところを教えていただけますか。
Eさま:気に入っているところは…本当に全部です。嫌なところがひとつもないんですよ。外観は黒く塗装した杉板とシルバーの屋根で、和風ながらスタイリッシュな印象でとても気に入っています。先日、僕の友人が家に来たとき、「寺みたいだね」と言われて、思わずガッツポーズを取りました。寺のような雰囲気が好きなんです。
Eさま:家の内部は外観の印象と異なり、無垢材と白い壁に囲まれたとても明るい空間です。どの部屋も気に入っていますがやっぱりこの家の主役はこのLDKですね。
キッチンは母親に確認の上僕の趣味でアイランド型にしました。セミオーダーで既製品の表面に内装と同じ板材を使っているので、部屋ととても調和しています。
アイランド型になったことで、母もこれまで壁に向かって料理をしていたのがお気に入りの庭を眺めたり、居間にいる人と話したりしながら料理することができてとても楽しそうです。新しい家になって母の表情がいっそう明るくなったように感じます。
僕自身は料理をあまりしませんが、毎朝ここでお気に入りのコーヒーを淹れて飲みながらウッドデッキに出て庭を眺める時間を楽しんでいます。これがもう本当に気持ちよくて、最高の時間です。
LDKの奥には和室の小上がりをつくってもらいました。小野さんが選んでくれた和紙畳が洋室と馴染んでいますし、父の遺影を飾った仏壇もすっきりと庭を向いておさまっていて嬉しい限りです。この小上がりの縁に腰を下ろすと庭を眺めるのにちょうどいい目線になるところもこまかく計算されていて、さすがだなぁと思います。
そういえばうちでは猫を一匹飼っていて、新しい家に馴染んでくれるかどうか少し心配していましたが新居に移ったその日からくつろいだ様子を見せていたので安心しました。きっと室内から見える庭の景色を変わらずに残してくれたお陰だと思っています。
─── バリアフリーや高断熱高気密といった機能にもこだわったそうですね。
Eさま:はい。僕は仕事で理学療法士をしていまして、職業柄加齢によるからだの変化について具体的なイメージを持っています。母は今のところ元気ですが、もし将来的に車椅子の生活になってもできる限り伸び伸びと暮らせるような家にしたい。そのことは最初から要望としてお願いしました。ですからこの家の通路やトイレはかなりゆったりとしたスペースが確保されていますし、トイレには壁の両側に引き戸の出入り口がついていて、母の部屋からも直接トイレに行けるようになっています。今現在はその動線を使うことはなくても、機能が備わっているだけで母も今から安心して過ごせると思うんです。
高気密高断熱も健康を意識してのことです。一年を通じてできるだけ変化の少ない環境で過ごすことが健康の維持につながるので、母も僕もできるだけこの家で長く健やかに過ごせるようにとお願いしました。断熱の素材などについて僕自身もいろいろと調べて伝えましたし、小野さんもすごく勉強してくださって、光を取り込みやすいガラスと熱が逃げにくいガラスを場所によって使い分けてくれたり。お陰で理想の環境が実現しました。年間を通じてエアコンを使う頻度はとても少なく済んでいます、母も僕も風邪をひきにくくなりました。
Eさま:竣工して1年が経ちましたがデザイン的に気に入っていないところがどこにもないですし、何よりもとても住みやすい家です。僕みたいにちょっと建築やインテリアの知識をかじっているような素人が要望を伝えると、なかなかまとまりがなくなってしまうことが多いと思うのですが、それらの要望を真摯に受け止めてバランスよくまとめ上げてくれるのが小野さんの力量、すごいところだと思います。
こんなふうに、デザイン性・居住性・機能性のすべてをバランスよく整えるには大変な労力が求められると思いますが、それを小野さんはずっとあの穏やかな佇まいを崩さずに実現してくれました。
自分の気に入った空間で過ごすというのは精神衛生上本当に良いものだなぁ、と日々実感しています。
もしいつかセカンドハウスを作る機会が訪れたとしたら、僕はもちろん迷わずにまた小野さんにお願いします。そのときには僕からあれこれ口出しせずに、全部お任せしてつくってもらって仕上がりを楽しみに待つのもいいかもしれません。
文句なしの家ができることはもう十分にわかっていますので。
2人とも同じブランドの洋服を愛用していたことからもわかるように、お会いしてすぐに“好み”が近い方だなぁと感じました。Eさんの「住みやすく、お寺のような家。」という要望はとても印象的で、つまりは「本質的で暮らしやすい住まいをお願いします。」という事。「すまいの本質ってなんだろう。」と改めて考えざるを得ない全うで少し怖い要望(笑)で、本当に学びの多い仕事となりました。勾配の深い屋根と杉板を黒く塗装した外観は、シンプルなだけに細部に気を配りました。スマートなEさんの印象にぴったりで僕もとても気に入っています。何より“お母さまを想う気持ち”に応える住まいづくりができたのならこんなに嬉しいことはありません。Eさん、またいろいろと服の情報も教えてくださいね。
今後もどうぞ末永いお付き合いをお願いいたします!
「母の家 」
Haha no ie
黒い杉板の外壁にシルバーの寄棟屋根、すこし懐かしいような佇まい。回遊動線を組み込んだ暮らしを支える平屋です
都内でいくつかの音楽雑誌の編集部に在籍したのち、帰郷して地元水戸の企画・デザイン会社に勤務。現在はフリーとして冊子やウェブの企画・文章作成・編集に携わる。小野さんとはカレー仲間。