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2022.2.28

ライトが80代の頃設計した「ジマーマン邸」
ご夫婦2人のための40坪ちょいのこじんまりとした住宅。
「ケニス・ローラン」邸もそうでしたがライト晩年の住宅は
飾り気がなく暮らしへの愛情が詰まっていて素敵です。

プランは1930年代のユーソニアンハウスが原型。
L字プランの「ジェイコブス邸」をパキッと直線に伸ばしたような構成。
玄関からのプライベートスペース、パブリックスペースへの振り分けや
ぐるりと走る回遊動線などとても暮らしやすそうな平面計画。
北側立面の穴あきブロックや、リビングの正方形のスイング窓などあらたな
試みも見られます。

切妻屋根の簡素でのびやかな立面。
落水荘のような大見得を切った建築も凄いですが、暮らすならこちらが良いですかね。(^^ゞ
・軒先を低く(地面より2100mm程)水平に走らせる。
・玄関ドアは壁面のプロポーションに埋もれないよう幅をとって。
・煙突はマッチ棒のように突き立てるのではなく壁として表現するべし。
など”ライトの流儀”で設計されています。
ちなみに「軒先を2100mm」は建築家、伊礼さんが「守谷の家」でやられていた
寸法。ライト、レーモンド、吉村さんと設計のスピリットのようなものが脈々
とつながっているのだなぁ、となんだか嬉しくなりました。

ライトを敬愛し、ライトの誕生日とクリスマスの年2回必ずメープルシロップを
送っていたというジマーマン夫妻。
それに対してライトは次のようなお礼の手紙を書いています。

「親愛なるジマーマン夫妻
メープルシロップは~いつものことながら~誕生日の最も甘い贈り物で、
ジマーマン夫妻の事を思い出させてくれる嬉しい贈り物でした。
ありがとうございます。
敬具 フランク・ロイド・ライト 1953年6月16日」

ライトとクライアントのあいだの深い絆を感じ取る事ができる良い手紙ですね。

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フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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2022.1.17

ライトといえば「落水荘」
それくらい有名な住宅ですが、トレースするのはなぜかいつも後回しに。
というのもプランがスカッとせず、床のレベルもまちまち、
構造も複雑で建物の全体像がなかなか掴みづらいからです。
建築関係の人でも落水荘のプランがすんなり出てくる方は少ないのでは。

そこで今回はまず「落水荘」の構造を理解する事から始めてみました。
かなりざっくりと構造をとらえると
➀ 川べりの岩盤と垂直方向に4本のコンクリートの梁を打ち込む。(基礎はない)
➁ 川岸から遠い方向に煙突、設備を内包するコアとなる石積みの壁を立ち上げる。
➂ 梁と石積みの壁が建物の足腰となり、そこに抽斗を置くようにキャンチレバー
  した床面を積み上げてゆく。
応援団の旗持ちのようなイメージでしょうか(^^ゞ
基礎が無い、建物全体でキャンチレバーを支える
というかなり無理をした特殊な構造。
いいかえれば大胆で独創的、ライトにしか決断できない勇気ある建築です。

基本構造を理解した上で改めてプランをじっくりと。
4本の梁のラインと、コアとなる石積みの壁を目印として平面を見ると
全体の構成がすっきりと見えて来ます。

「落水荘」は唯一無二の建築ですが、
読み込んでゆくと「ロビー邸」のキャンチレバーのしくみを90°づつ
角度をずらしながら重ねた構成と捉える事も出来ます。
”暖炉”を中心に据え、そこから水平方向へ空間を伸ばしてゆく。
ライトの流儀は初期の頃から脈々と繋がっているのですね。

定期的に行う「名作住宅トレース」なにが良いかというと
トレースするために資料や写真、図面をなめるように眺める事。
なんとなく知っていると思っていた建築の構成、構造、デティールなど
あらためて発見、理解する事ができ”建築”がますます好きになります。
今後もコツコツ続けてゆこうと思います。

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フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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2021.10.6

ライトの中で一番好きな住宅「ケニス・ローラン邸」
車椅子のクライアントのために設計した住宅で、機能的にも意匠的にも
実に美しく解いています。
全て車椅子の目線から検討され、圧迫感が出ないよう家具の高さは目線
より下になるよう配慮されています。
ライト80歳頃の仕事ですが斬新なプランの裏側に、人の暮らしへの確か
な目線と愛情を感じます。

プランは円弧を重ね合わせて切り取った”フットボール”型プラン。
ガーデンルームからテラスへと繋がる円弧状の回遊動線が日々の
暮らしにどれほどの豊かさを生みだすか。
寝室や暖炉を眺めるソファコーナーはしっかりと壁に守られた
奥まった場所へ。
住む人の心に寄り添った、凛として優しい名作だと思います。

ガーデンルームからカーブした中庭を眺める楽しさ。
すっぽりと包まれたソファコーナーからはパチパチと燃える
炎と、ライトアップされた植栽を楽しむ事が出来ます。

一番良いな~ と感じたのが寝室の化粧台周りの設え。
車椅子の高さを考慮して窓と窓の間の鏡はカウンターまで下り、
本棚もちょうど手に取りやすい高となっています。
見慣れないバランスですがとても美しい壁面のプロポーション。
必要な機能をさりげなく美しく設える老建築家、カッコよすぎます。

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フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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2021.8.18

フランク・ロイド・ライトが事務所を開いて初めての仕事
「ウィンズロー邸」
この処女作から、
プレイリーハウス「ロビー邸」
ユーソニアンハウス「ジェイコブス邸」
と追ってゆくとライトの建築の変遷を理解する事ができます。

プランは矩形を分割したオーソドックスな構成ですが、半円形に突き出した
温室や八角形の階段室の塔など独特な造形感覚が表れています。

この住宅の一番の特徴はやはり安定感のある正面立面。
まだ流れるような「オープンプラン」も水平帯の「窓」
も見られませんが、
・軒の深いゆるい勾配屋根
・暖炉を中心とした平面
・水平ラインを意識した立面の構成
などその後のライトの手法の種となるものが随所に見られます。
また今見るとなんて事はない外観と感じるかもしれませんが、
当時周囲に建ち並んでいたのはチューダー様式やクイーン・アン様式
など装飾過多の住宅、この率直な外観を持つ「ウィンズロー邸」の出現
は鮮烈な印象を与えたと思います。

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フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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2021.7.5

フランク・ロイド・ライト「ロビー邸」をトレーススケッチしてみました。
ライトが手掛けたプレイリーハウス(草原の家)の中で最も有名な住宅、
片持ちで水平に伸びて行く深い軒のラインが印象的な住宅です。

そもそもプレイリーハウスとはどんな家?
当時アメリカで建てられていた背の高いクイーン・アン様式、西洋風のヴィラなど
はライトにとってアメリカの大地に相応しくない家でした。
もっと大地と結びついた”単純性”のある住宅を、と設計されたプレイリーハウスは
次のような特徴を持っています。

・無駄な高さを生む屋根裏部屋、地下室を削り、地表と結びつき水平に伸びる。
・暖炉を家の中心に据え、そこから空間が伸びて行く”オープンプラン”。
・居間食堂を2階へ上げてプライバシーを確保。
・外部空間へとつながるスクリーンとしての壁。
・建物と合わせて計画された家具、外構、植栽が生む”一体感”

東西に長い敷地一杯に建てられた「ロビー邸」
トレースしているといろいろな興味深い点が浮かび上がってきます。

・ゾーニング
南側と北側に二つの寄棟屋根が掛けられているのですが、

南側:プレイルーム・リビング・食堂etc    メインの部屋(仕えられる空間)
北側:暖房室・ランドリー・台所・使用人室etc 裏方の部屋 (仕える空間)

という明快なゾーニングとなっています、「ひとつの屋根にひとつの用途」
ルイス・カーン”サーブドスペース” ”サーバントスペース”と同じ概念です。

・構造
この家のメインの構造はなんとレンガ造、
耐火性が欲しいという要望に応えてのものですが、プレイリーハウスの理念、
「外部とつながるスクリーンとしての壁」を実現するためにとても興味深い
構造となっています。
それが「3枚おろし」の構造、
図面に引いた緑の線、外周面よりひとう内側のラインにレンガの太い柱や
厚い壁を設けここで荷重を受けています。
構造的な負担を軽減された外周面は組積造でありながらガラスを多用した
開放的な壁、カーテンウォールのような扱いが可能となっているのです。
またライン上には屋根裏を鉄骨の梁が走っており、ここから屋根をキャンティ
レバーさせる事で水平に走る庇と深い軒の出を実現させています。

・意匠
中心にある暖炉から伸びる垂直な煙突の壁のライン、
そこから対比するように水平に伸びて行く屋根のライン、
立面図をトレースしていると軒先から、窓割り、基壇や笠木の一直線に伸びてゆく
バンド、これでもかというほど水平のラインが強調されているのが分かります。

また二つの屋根を平行に配置する事でどうしても生まれてしまう”谷”の部分、
苦し紛れに雨水逃げの開口を空けていたり、
庇を突き出すために屋根の隅木を角柱からずらして処理していたり、
意匠を実現するために苦心惨憺している設計者の姿も垣間見え
なぜだかほっこりしてしまいます。

正直最初にこの家の平面図を眺めた時は、さほど流動的なプランとも思えず、
ステンドグラスの濃密なデザインなどから、漠然とオールドスタイルの家という
印象でした。
しかし本を読み、図面をトレースをしながら設計手法や思想を探ってゆくと

・あたらしい明快なゾーニング
・カーテンウォールを生みだす新しい構造
・水平・垂直で構成された斬新な意匠

凄いものがグッと詰まった傑作である事が理解できます。
ライトの師匠にあたるサリバンは建物の表層を”単純化”し引き伸ばした建築家、
ライトはそれを空間という次元で達成した天才です。

またちょっといたずら、という訳でもないのですがロビー邸を面の構成として
抽象化してゆくとどうなるのか、簡単なアクソメを描いてみました。
こうしてみると、後のミースやリートフェルトの建築、デ・スティル運動へ
つながってゆく構成の萌芽を見ることができます。
奥の深い住宅ですね。

最後にライトが読んだ時に頬を打たれたような思いがした、という
岡倉天心「茶の本の」一文を

 ひとつの部屋の実体は、
 屋根と壁によって囲み取られた空間にこそ見出されるべきものであって、
 屋根や壁そのものに見出されるべきものではない。

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フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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2021.7.3

最近ライトの本や図面を見返しています。
この本ももう10年程前に手に入れた本なのですが、ライトの圧倒的な
デザイン密度に対するアレルギーからなかなかきちんと読めずにいました。
ただ、ライトの基本的な設計にたいする考え方を理解した上で読み返すと、
とても良くまとまった分かりやすい本でした。
またライト手描きのパースや家族への手紙など、袋とじになった付録が
たくさん入っていて、飛び出す絵本を読んでいる時のようなワクワク感
があります。

コルビュジェやミースに比べて近寄りづらい印象のあるライトの建築。
図面の奥にある設計手法、思想などを探ってゆくと、
建築の本質、「種」のようなものを常に意識していた、骨太で普遍的な
建築家であった事を今更ながら再確認することが出来ます。

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フランク・ロイド・ライト
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2021.6.14

建築家ライトのイメージを素直に書くと、自信家で傲慢、スキャンダルにまみれた
お金持ちしか依頼できない巨匠建築家・・・怒られてしまいますね。(^^ゞ
帝国ホテルに見られるような圧倒的なデザインの密度もライトを近寄り難い存在に
しているのかもしれません。
ただライトの著作「自然の家」を読んだり、ユーソニアンハウスをトレースすると
常に建築の本質を見つめながら設計をしていた事が良く分かります。
僕の好きな、カーンやウッツオンも初期の頃はかなりライトの影響を受けている
し、弟子筋にあたるレーモンド、吉村順三さんもライトの流儀を受け継いで自分
の作品を生みだしています。
スキャンダルや数々の伝説はいったん頭から外して
本を読み、作品を直にトレースする事でライトの凄さを素直に感じる事ができます。

トレースしたのは「ジェイコブス邸」44坪ほどの平屋でライトが中流階級のために
手ごろな価格でコンパクトな戸建てを、と企画したユーソニアンハウスの代表作。
台所を中心として、寝室郡、LDへと空間が伸びて行くL字型の構成。
プランと天井の高さの関係や外観のメリハリのつくり方、つくづくうまいなぁ・・
と感じ入ってしまいます。

プラン、空間の魅力はさることながら経済性・合理性を実現させるために
さまざまな標準化、規格化を試みています。

・平面は2×4フィート600mm×1200mmのコンクリートスラブをグリットとし、
立面は330mmの水平バンドをモジュールとする。
・壁パネルは内外同時に施工が完了し、工場でのプレファブ化も視界に。
・屋根も2×4の規格寸法の垂木材を3段積みとする事で深い軒を生みだす。
・床下に温水パイプを廻した床暖房システム、快適な空間。

コストをコントロールするために規格化を進め、
大切な温度環境はきちんと床暖で確保。
近寄り難い巨匠がぐっと身近になったトレース体験でした。
最後にライトの言葉を
「ユーソニアン住宅は、慎ましやかな家である。
どこにも”大仰な”ところのない、住むための場所である。」

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フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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2017.6.10

近代建築の3大巨匠、ライト、コルビュジェ、ミース
コルビュジェは「近代建築の5原則」をそのまま形にしたようなサヴォア邸が
あるしミースはユニバーサルスペースやガラスの高層ビルなど何がやりたかっ
たのか分かりやすい、デザインもスッキリしているので写真をみてもスッと頭
に入ってくる。
それに対してライトは文章を読んでも饒舌で作品集を眺めてもあの密度の濃い
細部のデザインが目に飛び込んで来てしまい、建築の本質的になにをやった人
なのかいまいち把握できずにいました。
ただ僕の好きな建築家、吉村順三さん、アントニーレーモンドと追ってゆくと
突き当たるのがライト。
ここは逃げるわけにはいかないと思い(笑)ライトの「自然の家」という本を読
み込んでみました。
読んでみるとやはり凄い建築家だなぁーとあらためて思います。
それまでの建築家といえはギリシャやローマ―の装飾をうまく組み合わせて建物
の外観をいかにバランスよくまとめるかがメインの仕事。
ライトはそういう”折衷主義”を否定し、「内部空間こそが建物の実態」とし、
植物が種から成長し枝を伸ばして行くようなイメージで建築を捉え、自分で
その原理を発見・実践した人、天才です。

イラストは「プレイリー住宅」でライトがやった事
・建物の高さを抑える
・暖炉を家の中心に据えそこから空間を伸ばして行く
・大地と呼応した水平方向への外観をつくる
・建築家への相談なしに家具、植栽を決めてはならない!(笑)
これはそのままレーモンド、吉村さんが設計の決め手としていた事と重なります。
その教えは現在ご活躍されている横内さん、伊礼さん、堀部さんなどへ受け継が
れている・・
そう考えるとフランク・ロイド・ライトやっぱりすごい男です!

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フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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