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2022.9.8

建築トレーススケッチ、
今回は建築家ルイス・バラガンが設計した「プリエト邸」
・「壁」の存在感
・ゆったりとした贅沢なスケール
・モダンな空間構成と、民芸的なオブジェのバランス
が印象的な住宅です。

バラガン邸と同じように外部(接道面)に対して溶岩石の壁で
閉じられた要塞のようなそっけない外観。
外部環境に対して一度壁で閉じて、そのなかに安息できる空間を生むのが
バラガンの手法。

図面を眺めると、この住宅の持つ”ゆったりとしたスケール感覚”を味わう事が
出来ます。

・内部空間とほぼ同等の面積を持つポーチやプールの贅沢な外部空間。
・伸びやかな吹き抜け空間に様々な床レベルが貫入し、統合する玄関ホール。
・5mの天井を持つの約70坪のLDK、扉や家具の厚みのある見付け寸法や大ぶりな
 スタンドライト、オブジェが散漫になりがちな大空間を引き締めています。

並みの建築家がこのような贅沢な条件を与えられても”住宅”としてまとめるには手に
余るところ、ただそこはアシエンダ(大農園)で裕福に生まれ育ったバラガン。
体感としてこの”ゆったりとしたスケール感覚”を身に付けていたのですね。

またバラガンと協働していたアートの目利きチューチョ・レイエスが配置した民芸
品やオブジェが空間にポイントをつくり、場を引き締めているのが分かります。

ついつい伸びやかな空間や美しいシーンへ目が行ってしまいますが、プランニング
を見てみましょう。まずは空間構成、
敷地の高低差に合わせながら、ゆったりと床レベルを繋いでゆき、東側から
寝室ゾーン→リビングゾーン→サービスゾーンと明快なゾーニングがされています。
またサービスゾーンから入り口ポーチへの裏動線や、大きな天窓をしつらえた
明るく可愛らしい台所の意匠に、暮らしの裏方の部分にも愛情をもって設計した
バラガンの人柄が偲ばれます。

一つ一つのシーンが本当にうつくしい室内の風景。
壁で閉じられた空間に差す光、手触りのある壁や床の素材感。
野性味のある庭と、暮らしの依り代となる調度品、ため息の出る空間です。

a.門を潜ると目前に広がるピンクとオレンジの壁で構成されたポーチ空間。
b.ゆったりとした吹き抜け空間に差しこみ高窓からの光、宗教的な雰囲気。
c.伸びやかなリビング空間、ここから家具・調度品を取り去った空間を想像
 してみるといかに家具、調度品の寸法やバランスが絶妙なのか分かります。
d.暗くなりがちな突き当りの角に天窓を設けるのもバラガンの手法、
 上からの光に照らされるキリスト像、教会の風景のようです。

メキシコの「原風景」のようなものをモダンな構成で現代につなげた
「バラガンスタイル」
個人の体験、記憶に深く根差したものであるからこそ普遍的な空間と
なっているのだと思います。
最後にバラガンの受賞式での言葉を、
「私の建築は自伝的なものです。
 すべての作品の根底にあるのは、
 子供時代と青年期を過ごした父の牧場での思い出です。
 遠く懐かしいあの日々の不思議な魅力を、
 つねに現代の暮らしに合わせて取り入れようとしてきました。」

Category
ルイス・バラガン建築スケッチ
Tag
2022.5.17

名作住宅スケッチ、
今回はメキシコの建築家ルイス・バラガン自邸をトレースしてみました。
バラガンの建築はいわゆる近代建築の”均一な一室空間”
(フィリップジョンソン/ガラスの家etc)とは異なる趣、
それぞれの部屋がそれぞれのキャラクターを持ち、プランの中央付近に
置かれた階段ホールが”ハブ”として各部屋を結びつけるという平面構成
がとられます。

「バラガン邸」は多層な床レベルや、立体的な回遊動線により”迷宮”の
ような空間ですがトレースをする事で”明快な構成” ”綿密な動線計画”
を持つ住宅である事が理解できました。

平面図、この住宅の大まかな構成を掴むために真ん中の”階段ホール”を
建物のコア(緑のラインを入れたところ、断面を合わせて見ると分かりやすい)
として捉えます。
すると
➀真ん中に1階/階段ホール 2階/ラウンジ 3階/メイド用パティオ のサービスゾーン
➁東側に床レベルの下がったガレージ・玄関ホール、その上に客室のあるゲストゾーン
➂西側に台所、食堂、上に寝室のあるプライベートゾーン
➃北側に吹抜けを持つリゆったりとしたリビングゾーン

大きく4つのゾーニングで構成されている事が分かります。
また図面で黄色く塗りつぶした部分がメイドさんが使う部屋、主動線と
交わる事なく買い出し、料理、洗濯と実に合理的な裏動線が計画されています。

「バラガン邸」は少し違うのかなぁ・・と思っていたのですが
やはり名作住宅には”明快な構成”と”練られた動線計画”あり!
今回のトレースで一番の嬉しい収穫でした。(^^)

またバラガン邸の特徴は室内の一つ一つのシーンがうつくしい事。
まずは”光”の風景について、一度壁で閉じた建物にいかに美しく
”光”を呼び込むか、バラガンの設計のテーマです。
a.玄関ホールに落ちてくる高窓からの光
b.野性的な庭を通じて差し込む動きのある午後の光(植物の影が壁に映りこむ)
c.白いスリガラスを通じてライブラリーに届く朝の静謐な光

野性的な庭と水盤もバラガン建築の欠かせない風景。
d.パティオに床面の高さに張られた水盤、不揃いに並んだ素焼きの壺
アルハンブラ宮殿を訪れた時に「目の前に現れた白い壁と水の音」に感銘を
うけたというバラガン、水面に遊ぶ光やジョボジョボという水の音が建築に
揺らぎや時間の要素を加えてくれます。

その他にも天窓から聖像に黄色い光が降りぐコーナーや、高い壁に囲まれ空と
対話する屋上テラスなど詩的な風景がところどころに表れます。

最後にもうひとつバラガン邸の見どころを、それは1階リビング庭に面した
大窓の外側に垂らされたカーテン、なぜ外にカーテン?
これは夕方に鳥が明りを目指してガラスにぶつかってしまうのを防ぐために
バラガンが後から付けたとの事、優しい詩人の人柄を感じます。

魅力的な居場所が多くついつい頁が増えてしまったバラガン邸、
この後もしばらくバラガン建築をトレースしてゆきたいと思います。

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ルイス・バラガン建築スケッチ
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