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2021.1.20

デンマークの建築家、ヨーン・ウッツオンがシドニーのオペラハウスを
設計した時の光と影の物語。

“シドニーのオペラハウス”といえば建築に詳しくない人でも写真をみれば
「ああ、あれね」と即座に分かる建物。
ヨットの帆のような美しいシルエットの屋根は、
一瞬で人の心を掴んでしまうなにかがあります。

この本を読むと、美しい建物を支えているウッツオンの明確な設計理念、
そして政治や経済によってその理念が無残に蹂躙され、ウッツオンが設計
の座を辞す事で建物が迷走してゆく様子をつぶさに追う事ができます。
一つの建築に詰まっている物語と熱量に圧倒されます。


*写真UTZUON-inspiration-vision-architecture より

この本の中で特に惹かれたのが
「ヨットの帆のような屋根にタイルをどう張り付けてゆくのか」
という難問(屋根の曲面が変われば全て特注のタイルとなってしまう)
にウッツオンが解決策を見つけるくだり。
「全ての曲率(曲げ角度)がおなじ球体から屋根のシェルを切り抜けば、
全て同じタイルを使って施工できる!」との閃き、まさに天才です。

ウッツオンの詩人のような感性と、天才の閃き、
後はタフにネゴシエートしてゆく図太ささえあればオペラハウスの運命も・・・

ただウッツオンの思想と乖離したインテリアが近々改修されるとの事。
改修にかかわるのは息子さんの”ヤン・ウッツオン”
息子さんの手によってウッツオンのオリジナルの思想に近い空間が
生まれる事を切に願っています。

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ヨーン・ウッツォン
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2021.1.9

檀さんのエッセイや「檀流クッキング」が好きでたまに手に取って
読むのですが、お正月休みに長編小説「火宅の人」を読んでみました。
本の内容はとても深いものなのですが、合間に出てくる料理や普請
の描写がとても魅力的。

「私はウロウロと、喪家の犬のように、落ち着きなくうろつきまわりながら、
雑多な魚介や、肉や、根菜類、の買い出しがしたいのだ。

七輪をおこし、団扇でバタバタあおいで、自分の食べるものを、自分で酢に
つけ、塩につけ、さまざまに煮炊きしてみたいのだ。
自分の小屋をつくってみたり、こわしてみたりしたいのだ。

そうして、私のまわりにチョロチョロする子供たちをよせ集めて、泣くな
よしよしの、やけくその蛮声をはりあげてみたいのだ。
犬、猫、鶏、家鴨の類を、絶えず私のお尻のうしろあたりに、ざわめかせて
いたいのだ。」

この一文に檀さんの人となりが表れていると思います。
暮らしに対するまなざしに共感するところが多く、確認するように何度も読み
返してしまいました。

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2020.12.14

モノクロームの線画で有名なエドワード・ゴーリーのインタビュー集。
風変りで飄々とした受け答えは、読んでいて思わずくすりとしてしまいます。
仕事は勤勉にこなしてゆくか、という問いに

「いえ、仕事にかかるくらいなら他のなんでもやりますね。
 外にでる口実が少しでもあれば、その日はおしまいだ。」

子供のころの事を聞かれて

「まったく思い出せない。私にはとうてい自伝なんて書けっこないでずね。
 言いたいことがこれっぽちも思い浮かばないんだから。」

などと、風変りとユーモアの絶妙なバランスでついつい読み進んでしまいます。
こんな大人がもっとふえると世の中が楽しくなりそう。
ふとした時に手に取りたくなる本でした。

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2020.12.4

J.D.サリンジャーの本
サリンジャーといえば「ライ麦畑でつかまえて」
学生時代にポケットに突っ込んで(格好つけて)読んでいました。
本屋さんで背表紙を眺めていると サリンジャー/村上春樹 訳 
という文字が、この二人の名前が並んでいるとそれだけで手に取って
しまいます。
不安定で感受性の強い兄妹フラニーとズーイ。
読んでいると自分が学生時代に感じていたよるべなさ、根拠のない気ままな
自由さをふと思い出しました。
不安と自己嫌悪に苛まれながらも案外素敵な時間だったなぁ・・
と今になって思います。
みんな元気にしてるかなぁ、というのが読後の感想(笑)
文も装丁もうつくしい本でした。

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2020.12.1

建築家、中村好文さんのあたらしい本。
「美しく散乱する台所」を理想とする台所設計術があますことなく書かれています。
映画「ジョンとメリー」の中に出てくるスタイリッシュな台所、
奈良今井町のジブリのアニメに出て来そうな勾玉型の竈など
好文さん「意中の台所」も必読です。

人々の暮らしに対するおおらな視線、形ではなく本質的な事は何かを
ユーモアを交えながら鋭く切り抜く視線。
この2つの視線が交わるところに現れる好文さんの世界にみな惹かれて
しまうのですね。
なんど貰っても嬉しい好文さんのサイン。
こんなバランスで字が書ければなぁと何度思ったことか・・・
まだまだ手を練り感性を磨いてゆかねば、と気持ちをあらたにしました。

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3人の建築家
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2020.11.24

生活工芸プロジェクトの本「繋ぐ力」
「古道具屋坂田」の坂田さん、「ギャルリ百草」の安藤さん、
そして建築家の中村好文さんなど、ものづくりの一線で活躍されている
方々のインタビューを読むことが出来ます。

表紙は好文さんが今までにつくってきた手摺たちのサンプル写真、
クライアントさんと握手するような気持で考えるとの事、
あたたかく美しいかたちです。

つくり手の人柄を感じる事ができる「暮らし好き」「道具好き」には
たまらない本です。(^^)

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2020.11.19

和田誠さんの「ことばの波止場」
替え歌や、韻など言葉あそびの楽しさをまとめた本。

僕は特に回文に惹かれました

「竹藪焼けた」  たけやぶやけた

上か読んでも下から読んでも、たけやぶやけた

言葉=何を意味するか、とすぐに概念を代替する記号として捉えがち。
この本を読んでいると言葉が本来持っている、リズム、音、
質感のようなもの、その楽しさをあらためて味わう事ができます。

和田さんの率直で外連味のない文章もすっと入ってきます。

ここでぼくも一句(一回文)

「ゴマ食べた孫」 ごまたべたまご

まだまだですね(^^ゞ

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2020.10.6

お酒のみの書く旅のエッセイが好きです。
開高健、吉田健一、田中小実昌、金子光晴といった人達の
本はたまに手に取ってお酒を飲みたくなります。

檀一雄さんは「檀流クッキング」「火宅の人」が有名ですが
エッセイもとても魅力的。

「ただ私にあるものはどう処理もしようのない不吉な己の魂だ。
手を出し足を出すまぎらわしようのない妄動の五体である。」

「繰り返すが世界の市場歩きほど、愉快な事はない。
その市場界隈の安食堂で飲んでいるほど楽しい事はない。」

どうしようもない何かを抱えながら、お酒を飲み
旅先の市場で飯を喰らい、人々に巻き込まれ、
自分を溶かすことでやっとホッとする。
人間の崇高さや希望、というよりは人間の弱さや
よるべなさに脚を置いた文章なのですっと胸に入って
くるのだと思います。

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2020.7.30

ミヒャエル・エンデ「モモ」
時間どろぼうとそれを取り戻す女の子の物語。
モモのできる事は
あいての話を聞くことと、時間をかけて待つこと。
あたりまえでいて、みんななかなかできないことですね。

この本のなかで「そうだよね!」と膝を打つ思いをした文章
があります。
それはモモの友達、道路掃除夫ベッポが自分の仕事への哲学を
打ち明ける場面、

「なぁ、モモ、」

と彼はたとえばこんなふうに始めます。

「とっても長い道路を受け持つことがよくあるんだ。
 おっそろしく長くて、これじゃとてもやりきれない、
 と思ってしまう。」<中略>

彼はしばらく口をつぐんで、じっと前の方を見ていますが、
やがてまた続けます。

「いちどに道路全部のことを考えてはいかん、わかるな?
 つぎの一歩のことだけ、
 次の一呼吸のことだけ、
 つぎのひとはきのことだけを考えるんだ。
 いつもただつぎのことだけをな。」

またひとやすみして、考え込み、それから、

「するとたのしくなってくる。
 これがだいじなんだな、たのしければ、仕事がうまくはかどる。
 こういうふうにやらにゃだめなんだ。」

自分のペースで、楽しんで仕事と向き合う。
あたりまえのことをあたりまえに。
とても良い読書体験となりました。(^^)

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2020.7.19

建築家ル・コルビュジェの一番弟子ヴォジャンスキーが
師について綴った本。
短い文章でまとめられており、コルビュジェのスケッチ
の挿絵や写真も美しいです。

同じ巨匠と呼ばれる、フランクロイド・ライトやミースは
自分の世界をつくり、一つの権威としての立ち振る舞いを
確立させていった人達。
一方コルビュジェはそういった世界に収まる事を好まず、
独自の歩みをやめなかった人。
社会的にも政治的にも自由であろうとしたがゆえに、数々
の妨害や批判を浴び続け戦い続けた建築家。

そんな数々の修羅場を潜り抜けてきた重さを感じさせず、
茶目っ気のある飄々とした佇まい。
そんなコルビュジェの生き方こそが独自の魅力を放ち、
敬愛さて続けている理由なのだと思います。

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