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2022.9.2

写真家、森山大道さんの本「犬の記憶」
すこし疲れたな、とか旅にでたいなぁ、なんていう時に
無性に読みたくなる中毒性のある書籍です。
大道さんのザラッとした黒い粒子の集まりのような写真と
自分の中の”記憶”を呼び覚ますような文、読み始めると
ぐっと惹きこまれてしまいます。
そして文章の中にリフレインのように重ねられた「記憶」「街」「風景」
という言葉。
同じような領域を掘っていく「建築」に携わる者にもなにか
挑発、示唆してくれるような魅惑的な本です。

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2022.8.24

仕事を始めようとしてもなかなか集中出来ない日があります。
そんな時は一度手を休め、写真集をゆっくりと眺めていると
不思議と心が落ち着いてきます。

この本はロマネスクの修道院の写真集。
シトー会の厳格な石積みの壁、
分厚い壁に穿たれた開口部から差し込む光、
緊張感のある美しい空間が浮かび上がります。

建築家ルイス・カーンは「光こそがテーマだ。」
ルイス・バラガンは「静謐な空間をつくる事が建築家の義務なのです。」
と語ってしますが、このロマネスクの空間はまさにそのスピリットと
直につながっているような気がします。

ついつい忙しく日々を送ってしまいがちですが、
たまに立ち止まり「杜の樹々」「お寺の境内」「修道院」など
黙ったまま変わらずに存在し続けている”風景”に思いをはせる事で安心して過ごせます。

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2022.7.29

時間が空くとたまに哲学の本を捲ります。
そこに”真理”がある、などとは一切思っていませんが(笑)
偏屈そうな面構えの大の大人(哲学者)が自分の人生のほぼ全てを投げ打って
紡いだ言葉による~大いなる仮説~はやはり面白いです。
エンターテイメントとして哲学書を読む、などというと怒られてしまうかもしれ
ませんが、何千年前から営々と紡がれてきた言葉による自己表現のドツキ合い。
今はやりの”論破”などとは桁違いに深く面白い世界です。
ニーチェ、サルトル、レヴィストロース、ラカン、
ポートレートを眺めてみると歴代インテリマフィアのドンかというような面構え。
落語家の立川談志さんは「芸」を「己のエゴの完遂」と定義していましたが
哲学の世界も近いものがあるのでしょうね。
日々のルーティーンに少し飽きて来たな、という時は癖の強い哲学書がお勧めです。

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2022.5.7

GWは何年振りかに益子の陶器市へ、
天気が良く五月の風に吹かれているだけで幸せな気持ちになりました。

移動本屋の「ペンギン文庫」さんも出店されており
柚木さんの本を購入、しおりが可愛いですね。
本の中にあった柚木さんの言葉、

「今日も明日は昨日になる

さうして どんどん足下から時は流れ去ってゆくのでしょう

そんな中で私の目に止まった人や風景は何時までも輝いていて美しい

私の勝手な思いこみかも知れませんが”なつかしさ”という気持ちは

人の心に共通する平和で安心できる場所ではないでしょうか」

柚木さんの言葉はやさしく、すっと胸に沁み込んできます。

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2022.4.9

近頃あたたかくなり、湖畔の散歩がとても気持ち良いです。
散歩から事務所へ戻ると埴沙美萌さんの「植物記」の項を捲ります、
季節の草花の写真とともに植物の生長の様子が綴られている素敵な本です。

桜のピンクと苔のダークグリーンの色合いの良さ。

紅色の花が印象的なボケの花。

白色が眩しいユキヤナギ。

埴さんは
「いっぽんの草が、ささやかに生きることのために、どれほど大きな
英知と愛とが、「自然」からそそがれていることか。」
それを伝えたくて「植物記」をつくる決心をしたとの事。
社会生活や人間関係の処理に追われる頭の中。
人の世を少し離れ、植物や生きものの世界を覗いて見ると、
もっとおおらかで大きなつながりを発見できます。

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2022.4.4

先に投稿した「新版・日本村」合わせてこの「百年前の日本」を読むと面白い、
今から130年程前、1890年頃の日本各地の様子が明治の「お雇い外国人」
エドワード・モースによって撮影されています。

「新版・日本村」では1970年頃の”高度成長”によって経済大国へひた走る様子を、
「百年前の日本」では1890年頃の”明治維新”による急激な近代化へ舵を切った国の
 様子を、都市部、農村部ともに確認する事ができます。
「明治維新」「高度成長期」という日本の大きな転換期を2冊の本で追う事ができ
るのはとても興味深いです。

亀戸天神の藤棚の様子、まるで浮世絵のような風景。

銀座の大通りの様子、電線、路面電車が走る近代化してゆく街並み、
ただ両側に並ぶ建物は瓦屋根の木造2階建て、街のスカイラインは崩れてません。

農村部はほぼ江戸時代のまま、「新版・日本村」に収められた地方の写真は
まだこの風景との繋がりを感じます。
本の終わりにモースの言葉が載っていました。
「この国の文化は、日ならず、西欧化の波にのまれて、消え去って
 行くであろう。その前に、記録しておくのだ。」
今の日本の街並みとは断絶した「百年前の日本」の情景、
現在の街並みの原型を見る「新版・日本村」のモノクロ写真、
変わりゆく街のポートレイトとして貴重な2冊の本です。

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2022.4.1

誕生日に家族に買ってもらった新版「日本村」
淡路瓦師でもある山田脩二さんの写真集です。

1960~70年代、高度成長期に無秩序に変容して行く都市部の様子、
土臭くうらぶれながらも街の記憶や身の丈の景色を保持する地方の風景。
都市と地方が”断絶”して行く様子をザラリとしたモノクロ写真で切り取って
います。

1970年頃に超高層ビルが立ち上がってゆく都市の風景、
ここで街の”ありかた”のようなものが決定的に変わった事を感じます。
定食屋や居酒屋が並ぶ「街」に打ち込まれた圧倒的な超高層のスケール。
資本というもののパワーを剥き出しにしたマッス・塊は、ゆるやかに繋がっていた
スカイラインや染みついた街の記憶を無視するかのように聳え立っています。

建築家の内藤廣さんがこれからの50年、100年を考える時は50年、100年
の過去を探れ、というような事を書いていましたが、半世紀前の日本の
街の息遣いを感じ取る事のできる貴重な写真集です。

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2022.3.14

柚木沙弥郎展へ行った時に買い求めたペンチとトンカチ
のカードを額装して事務所の壁に掛けてみました。

柚木さんの、もよう・かたち は素朴なのですがモダン
眺めているとわくわくしてきます。

息子が小さい頃、よく一緒に公園で遊んだのですが
その時の彼らの様子を思い出します。
ただそこに居るだけでうれしくて、泥をさわったり
汗ばんだおでこのまま風の中へ突進してみたり。
柚木さんの”かたち”はなにかそういった”いのちのふくらみ”
のようなものを感じます。

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美術・展示会
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2022.2.21

たまにパウル・クレーの本をぱらぱらと捲ります。
クレーの絵を眺めていると
「不思議だなー、でもどこか記憶に残っている情景のような・・・」
と分からないままに目を遊ばせてしまいます。

ピカソの絵やモネの絵には、こうしようという”意図”がありその”手法”
に乗っ取って絵を構築しているので頭で理解する事ができます。
でもクレーはいきなり本質的なところに手を突っ込んで”ほらっ”
とキャンパスの上に絵を置いて”ねっ”と、そんな印象を受けます。
情緒的ではなく、宇宙的な乾いた深い世界。
クレーの持つ「謎」が多くの人を惹きつけるのだと思います。

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2022.2.12

独特のテンポで、打ち込むように音を連ねていくモンクの世界。
そんなモンク好きな村上春樹さんがモンクに関する文章をまとめた
アンソロジー。
本を読んでいると音楽と同じく、ユニークで不思議(捉えどころのない)
そしてチャーミングな人柄だった事が伝わってきます。
「彼は通常のピアニストがまず行かない場所に、堂々と踏み込んでいく。」
このモンクの”姿勢”に多くの人が惹かれ、敬愛してしまうのですね。

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