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フランク・ロイド・ライト「ロビー邸」
2021.7.5

フランク・ロイド・ライト「ロビー邸」をトレーススケッチしてみました。
ライトが手掛けたプレイリーハウス(草原の家)の中で最も有名な住宅、
片持ちで水平に伸びて行く深い軒のラインが印象的な住宅です。

そもそもプレイリーハウスとはどんな家?
当時アメリカで建てられていた背の高いクイーン・アン様式、西洋風のヴィラなど
はライトにとってアメリカの大地に相応しくない家でした。
もっと大地と結びついた”単純性”のある住宅を、と設計されたプレイリーハウスは
次のような特徴を持っています。

・無駄な高さを生む屋根裏部屋、地下室を削り、地表と結びつき水平に伸びる。
・暖炉を家の中心に据え、そこから空間が伸びて行く”オープンプラン”。
・居間食堂を2階へ上げてプライバシーを確保。
・外部空間へとつながるスクリーンとしての壁。
・建物と合わせて計画された家具、外構、植栽が生む”一体感”

東西に長い敷地一杯に建てられた「ロビー邸」
トレースしているといろいろな興味深い点が浮かび上がってきます。

・ゾーニング
南側と北側に二つの寄棟屋根が掛けられているのですが、

南側:プレイルーム・リビング・食堂etc    メインの部屋(仕えられる空間)
北側:暖房室・ランドリー・台所・使用人室etc 裏方の部屋 (仕える空間)

という明快なゾーニングとなっています、「ひとつの屋根にひとつの用途」
ルイス・カーン”サーブドスペース” ”サーバントスペース”と同じ概念です。

・構造
この家のメインの構造はなんとレンガ造、
耐火性が欲しいという要望に応えてのものですが、プレイリーハウスの理念、
「外部とつながるスクリーンとしての壁」を実現するためにとても興味深い
構造となっています。
それが「3枚おろし」の構造、
図面に引いた緑の線、外周面よりひとう内側のラインにレンガの太い柱や
厚い壁を設けここで荷重を受けています。
構造的な負担を軽減された外周面は組積造でありながらガラスを多用した
開放的な壁、カーテンウォールのような扱いが可能となっているのです。
またライン上には屋根裏を鉄骨の梁が走っており、ここから屋根をキャンティ
レバーさせる事で水平に走る庇と深い軒の出を実現させています。

・意匠
中心にある暖炉から伸びる垂直な煙突の壁のライン、
そこから対比するように水平に伸びて行く屋根のライン、
立面図をトレースしていると軒先から、窓割り、基壇や笠木の一直線に伸びてゆく
バンド、これでもかというほど水平のラインが強調されているのが分かります。

また二つの屋根を平行に配置する事でどうしても生まれてしまう”谷”の部分、
苦し紛れに雨水逃げの開口を空けていたり、
庇を突き出すために屋根の隅木を角柱からずらして処理していたり、
意匠を実現するために苦心惨憺している設計者の姿も垣間見え
なぜだかほっこりしてしまいます。

正直最初にこの家の平面図を眺めた時は、さほど流動的なプランとも思えず、
ステンドグラスの濃密なデザインなどから、漠然とオールドスタイルの家という
印象でした。
しかし本を読み、図面をトレースをしながら設計手法や思想を探ってゆくと

・あたらしい明快なゾーニング
・カーテンウォールを生みだす新しい構造
・水平・垂直で構成された斬新な意匠

凄いものがグッと詰まった傑作である事が理解できます。
ライトの師匠にあたるサリバンは建物の表層を”単純化”し引き伸ばした建築家、
ライトはそれを空間という次元で達成した天才です。

またちょっといたずら、という訳でもないのですがロビー邸を面の構成として
抽象化してゆくとどうなるのか、簡単なアクソメを描いてみました。
こうしてみると、後のミースやリートフェルトの建築、デ・スティル運動へ
つながってゆく構成の萌芽を見ることができます。
奥の深い住宅ですね。

最後にライトが読んだ時に頬を打たれたような思いがした、という
岡倉天心「茶の本の」一文を

 ひとつの部屋の実体は、
 屋根と壁によって囲み取られた空間にこそ見出されるべきものであって、
 屋根や壁そのものに見出されるべきものではない。

Category
フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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