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2019.7.6

1955年竣工の「自由が丘の家」
ピアニストのための23坪の小住宅、この規模にも拘わらずグランドピアノ
2台置けるスペースがとられています。
住宅遺産トラストさんのイベントで3回ほど見学をしたことがあるのですが、
本当にとろけるような居心地の良さ、雨の日にソファで佇んでいた時は
「このまま泊まりたい」(笑)と本気で思いました。

小住宅ですが心地良いスペースが各所にあります、僕は玄関から窓際のソファ
コーナーまでの道のりがとても好きです。
玄関を抜けると2段トントンと下がってリビングへ、そこはピアノの演奏のために
たっぷりとした吹き抜け空間になっています。
さらに奥へすすむと今度は天井高さ2100ミリ程度にぐっと抑えられたソファコーナ
ーへ、天井は光を吸い込むような板張りの暗いオイルステン仕上げ。
そしていままでの進行方向へぐるりと背中を向けて窓際のソファへ腰を下ろします。

背中には障子越しにしとしとと降る雨の音、
左の手元には低い照明からオレンジの灯り、その光がざらっとしたコンクリート
の壁を照らし「守られている・・」という安心感があります。
これではす向かいにある暖炉の火がパチパチと燃えていたら・・・

どうだ、というこれ見よがしな所はどこにもありません。
簡素な素材を使い、空間のプロポーション、人の動線、光の陰影、を人の生活の心
に寄り添いながら丁寧に計画して行くことでこれだけ質の高い空間をつくれるのだ
というお手本のようなお家でした。
小さく簡素でとろけるような居心地の家、僕にとって宝石のような住宅です。

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吉村 順三手描きスケッチ
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2019.6.19

名作住宅トレース、ルイス・カーンの「フィッシャー邸」
糸杉でおおわれた2つの木箱を45度傾けてくっつけたなんとも
魅力的なお家です。

フィッシャー邸ではカーンが50年代に追求した2つの手法
・空間を分ける (スリーピングブロック リビングブロック)
・正方形から始める 
とともに
・斜めの配置(斜めの見えがかり、奥行き)
が使われています。
「斜めの配置」を使うことで幾何学の固さがゆるまり、また外壁が
すべて違う方向に向くことで様々な表情の光が室内へ入ってきます。

良い建築はプランが美しく何度眺めても飽きることがありません、きっ
と建築家の人柄や哲学のようなものが詰まっているからなのでしょうね。
今後も名作住宅トレースを続けてプランの奥にあるものを紐解いて
行きたいと思います。

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ルイス・カーン手描きスケッチ
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2019.4.5

名作住宅トレース、今回はルイスカーンの「エシェリック邸」
明快なコンセプトとプラン、抽象画のような美しい佇まい。
何度も写真集を眺めている大好きな住宅です。

プランは1、2階とも西側から4分割にゾーニングされており、カーンの言う
「サーバントスペース」(仕えられる空間)「サーブドスペース」(仕える空間)
が交互に並ぶ構成。
またカーン独特のFIXガラスの「見るための窓」開閉木戸の「通風の窓」を
組み合わせる開口部もこの住宅で完成したとの事、
「通風の窓」は雨掛かりを避け引っ込むため堀の深い印象的な外観が生まれます。

断面を見ると高さはずいぶん小ぶりなサイズ、最高高さが6m程度
実際に眺めるととても良いスケール感なのでしょうね。
また階段も見どころ満載(笑)、手摺と柱、壁と木板、柱と木板、
各パーツの接合部が丁寧に納まっておりこうした細かいディテール
が凛とした美しい空間を支えているのですね。
いつか実際の空間を体感してみたいです!

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ルイス・カーン手描きスケッチ
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2019.3.20

名作住宅トレース、今回は吉村順三さんの「国際文化会館住宅」
坂倉準三、前川國男、吉村順三が共同設計した「国際文化会館」に隣接する館長、
副館長のための住宅ですが残念ながら現存せず。
1.5寸勾配のスカッとした表情の木造モダンのファサードが少しずれながら2棟
並ぶ姿が美しいです。

構成は総2階(50坪程度)の2棟が中央の女中棟で連結されるというもの。
写真の外観からはもう少し小ぶりな大きさかと思いましたがトレースして
みるとゆったりとしたプランニングであることが分かります。
間仕切りの建具を全開放としてレセプション時の利用も想定していたよう。

女中室、それぞれの棟のキッチンからバックヤードへの動線の捌き方が絶
妙です、吉村さんの設計はいつもこうした実際の生活への視線、愛情を感
じます。

断面を見ると南面の軒高は5400と低く抑えられ、内部は真壁と大壁併用の
独特のインテリア、よく見ると1階の張り上端はバラバラで天井裏のフトコ
ロがほとんどありません。

素材も屋根垂木の下にアルミ箔を張り付けていたり、三井ボードなる新建
材?を使っていたり、窓下にラジェーターグリルをつけたりトータルにいろ
いろなチャレンジをしているのが分かります。

同じ建築家のトレースを何件か続けているとその建築家のくせのようなもの
や、何を大切にして設計を組み立てていたのかが段々と分かってきます。
今後も名作住宅トレースで学んでゆこうと思います!

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吉村 順三手描きスケッチ
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2018.6.16

正方形に屋根の掛かった4つのブロックが連結された「シャピロ邸」
ルイス・カーンの1950年代の設計手法がよく表れた住宅です。
50年代のカーンの設計を見ると突如「正方形」がプランの骨格として使われる
ようになってゆくのが分かります。
これはカーンが「リビングルーム」「ダイニングルーム」などという名前のつ
けられた部屋を嫌い、そもそも人がくつろぐ空間とはどうあるべきか、食事を
する空間とはどうあるべきか、空間を根本から問い直そうとしたしたからです。
その時に拠り所としたのが幾何学「正方形」
「食うところ」「寝るところ」など空間の用途を分けたうえでそれぞれの用途
にひとつの正方形スペースユニットが割り当てられる。
その空間単位を連結させていくことで建築を構成してゆくという設計手法です。

シャピロ邸のアクソメを描いてみると4つの同じ大きさの正方形のスペースユニ
ットで構成されている事が良く分かります。

カーンの40年代の住宅「ワイス邸」「ジェネル邸」などではプラン上ではリビング
ブロック、スリーピングブロックと分けられていましたが、屋根は全体を覆うよう
におおらかに架けられていました。
このシャピロ邸ではそれぞれのブロックで屋根が完結するため40年代の住宅とは
外観が大きく変化し、カーンの建築独特の佇まいが生まれています。
またユニットの四隅の中空柱にユーティリティを割り当てる「サーブド&サーバン
トスペース」という新しい概念も見ることができます。

「誰々の家」ではなく”HOUSE”という抽象的な概念をストイックに追い求めたカー
ンの姿勢が生み出したシャピロ邸、神殿のような神々しい雰囲気すら感じます。

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その他ルイス・カーン手描きスケッチ
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2018.4.19

ルイス・カーン1940年代後半の作品、ちょうど前回トレースした
「ワイス邸」と同時期に設計された住宅です。

プランを眺めるとやはりワイス邸と同じ手法でつくられた事が良く
分かります、

➀ 伝統的な素材、石・木・レンガを使う
➁ 建物の内部と外を結ぶ「中間領域」をつくる
➂ 「リビングブロック」と「スリーピングブロック」へ空間を分ける

最終プランでは読み取れませんが、初期案をみると玄関前のポーチに
はパーゴラが掛けられ玄関ホールの奥には石壁で囲まれた中庭が計画
されています、まさに2つのブロックのあいだに「中間領域」を差し
込もうとしていたのですね。

このジェネル邸を読み込んでいくと、高低差のある敷地に呼応する
ような巧みな断面計画と、ゆったりと掛かる美しい屋根が特徴であ
る事が分かります。

1950年代に入るとカーンは正方形(幾何学)の独立したユニットを
組み合わせ並べるという手法を追及します。
ワイス邸やジェネル邸のような全体をつなげる屋根の存在感は無く
なり、フィッシャー邸やエシェリック邸のようなキューブが並ぶよ
うな形態が際立ってきます。

個人的にはブロックは分けつつも全体はゆったりとした屋根でつな
げるというカーンの建築はとても魅力的だし、まだまだ追及する可
能性のある手法だなぁ・・と感じました。

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ルイス・カーン手描きスケッチ
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2018.2.18

建築家の斎藤裕さんが「ワイス邸が分かればカーンがわかる」というワイス邸、
カーンはここで得た手法を通して後の珠玉のような住宅をつくりだします。
その手法とは
➀ 伝統的な素材・石・木・レンガを使って家をつくる。
➁ 建物の内部と外を結ぶ「中間領域」をつくる。
➂ 空間を分ける、住宅を「リビングブロック」と
  「スリーピングブロック」に分ける。
です。

上記の特徴を頭に入れながらプランを眺めるとその構成が良く分かります。
住宅はガレージ棟・リビング棟・寝室棟の3つのブロックに分かれ、リビング
棟と寝室棟の間には頭上にパーゴラがかけられたポーチ(半戸外空間)がつく
られています。
素材は石・木・ガラスの3種類が使われ重心の低い佇まいとなっています。

断面を見るとなだらかに南へ下がる土地にガレージ棟、リビング棟が高さを
変えて配置されています。リビング棟、寝室棟は一枚のバタフライ屋根が掛
かり、軒先の水平ラインがビシッと通っています。
後の作品では分けられたブロックそれぞれに屋根が掛けられるのですが、ワ
イス邸ではブロックは分けつつも屋根は一枚でまとめているところが興味深
いです。
古典的な独自の魅力を放つカーンの住宅、今後もトレース研究します。

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ルイス・カーン手描きスケッチ
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2018.2.5

今年最初の名作住宅トレースは吉村順三さんの「御蔵山の家」
若い夫婦のためのローコスト住宅、RC平家建て16坪のお家
です。

コンパクトながらも家事の裏動線、収納をコアとした回遊動線、
そして2.5間角の正方形の据わりの良いリビング空間
吉村さんの設計のエッセンスが詰まっています。
・ソファ・外部への開口部・暖炉の絶妙な配置、平面図だけで
も居心地の良さが伝わってきます。
また木製建具もコンクリートの躯体に木レンガを埋め込み、木
枠に一本引きの雨戸、網戸、ガラス戸が並ぶシンプルな構成。
内壁はプラスター仕上げですが下地に断熱材を兼ねた木毛板が
使われています。
間仕切り壁は24㎜の合板一枚、爽快です。

断面も玄関・水廻りは天井高さ2100mm、リビングは2300mm
とし落ち着きと開放感を生み出しています。
仕上げはプラスターやラワンベニヤなどいたって質素な素材
床材にいたってはビニル床のロンリウム、ここらへんの潔さ
が気持ち良いです!
そしてローコストにもかかわらず全面に温水床暖房が施され
、ベットの下はパイプを省略する細かい心づかい。
図面をみればみるほど、・意匠・性能・コスト すべての面
でシンプルに削ぎ落としながら必要十分とした素晴らしい住
宅という事が分かります。
この仕様で当時坪11万円、その頃のプレハブ住宅の坪単価が
15万円程度だったとの事なので今の感覚で坪45万円くらい、
平家のRC造で床暖、暖炉付きでこの値段。
とことん削ぎ落とした上で「とても豊かな住宅」コンパクト
な家を設計する時に常に心に留めておきたいお家です。

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吉村 順三手描きスケッチ
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2017.6.10

近代建築の3大巨匠、ライト、コルビュジェ、ミース
コルビュジェは「近代建築の5原則」をそのまま形にしたようなサヴォア邸が
あるしミースはユニバーサルスペースやガラスの高層ビルなど何がやりたかっ
たのか分かりやすい、デザインもスッキリしているので写真をみてもスッと頭
に入ってくる。
それに対してライトは文章を読んでも饒舌で作品集を眺めてもあの密度の濃い
細部のデザインが目に飛び込んで来てしまい、建築の本質的になにをやった人
なのかいまいち把握できずにいました。
ただ僕の好きな建築家、吉村順三さん、アントニーレーモンドと追ってゆくと
突き当たるのがライト。
ここは逃げるわけにはいかないと思い(笑)ライトの「自然の家」という本を読
み込んでみました。
読んでみるとやはり凄い建築家だなぁーとあらためて思います。
それまでの建築家といえはギリシャやローマ―の装飾をうまく組み合わせて建物
の外観をいかにバランスよくまとめるかがメインの仕事。
ライトはそういう”折衷主義”を否定し、「内部空間こそが建物の実態」とし、
植物が種から成長し枝を伸ばして行くようなイメージで建築を捉え、自分で
その原理を発見・実践した人、天才です。

イラストは「プレイリー住宅」でライトがやった事
・建物の高さを抑える
・暖炉を家の中心に据えそこから空間を伸ばして行く
・大地と呼応した水平方向への外観をつくる
・建築家への相談なしに家具、植栽を決めてはならない!(笑)
これはそのままレーモンド、吉村さんが設計の決め手としていた事と重なります。
その教えは現在ご活躍されている横内さん、伊礼さん、堀部さんなどへ受け継が
れている・・
そう考えるとフランク・ロイド・ライトやっぱりすごい男です!

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フランク・ロイド・ライト手描きスケッチ
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2017.5.31

住宅デザイン学校の合宿で伊礼さんから教えて頂いた「池田山の家」
吉村順三さんの1965年の作品です。

図面をみてまっ先に目に飛び込んでくるのがぐるぐると廻る回遊動線
まさに回遊動線の塊のようなプランです(^.^)
その他にも
・フトコロを薄くするために採用されたワッフルスラブ
・地下ボイラーで温めた空気を窓下のスリットから吹き出す暖房設備
・池の水面へ跳ね出すリビング前のデッキ
・坪庭とつながる”内のような外のような”玄関ホール
・くるりと廻る電話台や、牛乳を盗まれない郵便受け(笑)
など全体から細部に至るまでこれでもかと練りこまれています。
設計の担当者は奥村昭雄さんとの事ですが、動線や構造といった全体
的な視点から、電話台や郵便受けの可愛らしい仕掛への細部への詰めま
で等価のエネルギーを費やして設計を練りこんでゆく姿勢は圧巻です。
トレースする事で建物やプランの構成だけでなく、設計にかける執念、
情念のようなものを感じる事ができとても良い勉強になりました!

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吉村 順三手描きスケッチ
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